何様のつもり?
「お久しぶりです」

「お待ちしておりました。どうぞ」

滝野さんが、社長室に案内する。


コンコン。

「社長、山中さんがいらっしゃいました」
 
「どうぞ」

えっ?蓮翔、いたの?
もしかしたらいないかもって言っていたから、会わなくて済むと思ったのに。

「失礼します、山中です。雑誌が出来上がりましたのでお持ちしました」

「お忙しい中、お越し頂きありがとうございます」

相変わらずカッコイイ。って見惚れてる場合じゃない。早くこの場から離れないと平常心を保つことが出来なくなる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

『社長、何がございましたらお声掛けください』

『あぁ、分かった』

『それでば失礼致します』

えっ?
2人きりなの?どう対応したらいいの?
心臓が爆発する音を聞きながら、私は平常心保った。

『こちらにおかけ下さい』

『はい.......』

私は、ソファーに座った。

「これが、今日出来上がった雑誌です」

早速、鞄の中から雑誌を取り出し、テーブルの上に置いた。

「出来上がったのですか。では拝見させて頂きますね」

「どうぞ」

蓮翔は、雑誌を見始めた。
その場で見る人と、忙しいので後で見ておくという人がいるが、ほとんど後者の人が多い。
でも蓮翔は、その場で見てくれた。

「今回は表紙もお2人のツーショットにさせて頂きました」

「あぁ……」

蓮翔は雑誌を食い入るように見ていた。
それは、私にとってとても嬉しいこと。
自然とニヤケてしまう。
手塩にかけて育てた子供を手放すのと同じ気持ちだと思う。雑誌は私の子供と同じだ。

蓮翔が読み終わるまで、じっと待つ。

「良い雑誌ですね。記事を拝見すると、忠実に書いてくださっているのが分かります。ありがとうございました」

顔を上げて嬉しそうな顔をするから、私まで自然と笑顔になってしまう。
そのままずっと見ていたい。
私が蓮翔を独り占めしたい。

「どうかしましたか?」

「えっ あっ 何でもありません」

私は慌てて平常心を装った。

「もし、何かありましたらご連絡してください。それでは、私はこれで失礼します」

私は急いで社長室から出ようとした。
これ以上2人きりでいたらいけないと私の心が叫んでいた。

「おい、待て」

ドキッ。胸の高鳴りが抑えられない。

嫌な予感がする。

私は呼吸を整え、蓮翔の方を向いた。

「どうかしましたか?」

「いつまで惚ける気だよ」

蓮翔は一歩づつ私に近づいてきた。

「仰っている意味がわからないのですが…」

「秋帆…」

バレてたの?
下の名前でなんて呼ばないで。
懐かしさが込み上げてくる。
高校の時の複雑な気持ちがリアルに蘇ってくる。
私もつられて「蓮翔」と呼んでしまいたくなる。
でもそんなことしちゃ駄目だ。

蓮翔と壁に挟まれて、身動きが取れなくなってしまった私を、ずっと見つめる蓮翔。

「あの…離れて頂けますか?」

「嫌だ……」

蓮翔の顔を見ることが出来なくて、俯いた。
近すぎでしょ。こんな近くて蓮翔を感じたら、私どうしたらいいの。

でも負けていられない。

「こんなことして、誤解されたら困るので離れてください」

敢えて冷たい言葉を言った。
どうせ、何とも思っていない私をからかっているだけだから。

「誰が困るんだよ。ここには2人以外誰もいないけど?」

「私が困りますから」

今度は、蓮翔の目を見てはっきり言った。

「ふふっ、高校の時と変わってねぇな」

どこか嬉しそうな蓮翔。

あぁ、やっぱり好きだ。

「久しぶりだな、秋帆」

「……だからこういうのは困ります」

「困らねぇよ。それにお前は秋帆だ。俺が忘れるわけねぇだろっ」

「長時間、2人きりでいたら滝野さんに誤解されますし、私はもう帰りますので離れてください」

「はぁ?そんなに俺といるのか嫌なのか?あっ、そういうことか。滝野のことが好きなのか?」

「はぁ?私がいつそんなこと言いましたか?」 

何でそうなるの?
冷静でいようと思うのに、挑発するような言い方は昔と変わらない。
どこまで勘違いしたら気が済むの。
あ〜っ、イライラする。

「今言っただろっ。滝野が誤解するって」

「それは、秘書さんだからです。長時間私と話をしていたら何かあったのかかと、誤解するのではと思っただけです」

「滝野は優秀だから、俺とお前の間に何かあるなんて思わねぇよ」

「そうですよね。私と塚本さんが何かあるなんて有り得ないですよね?」

また、高校の時、傷ついた痛みが蘇ってきて、眉間にシワが寄った。

「あっ、秋帆?」

焦っている声がしたが、私はムキになって話し続けた。

「そうでした。
塚本さんには、かりんさんという素敵な彼女さんがいらっしゃいましたもんね。
誤解するはずなぃすよね?
私もこの企画をしてよかったです。
お2人の恋のキューピット役になれて幸せです。
2人ともお幸せになってください。
でも、かりんさんに誤解されないようにこういうことは、他の人ともしない方がいいですよ」

私は、蓮翔から離れようと、隙間から逃げようとした。あと少しで逃げれるっと、思った瞬間……。グイッと腕を掴まれた。

その瞬間、バランスを崩し、蓮翔の胸に飛び込むようなかたちになってしまった。

「あっ、ごめんなさい」

どっ、どうしよう。急な展開に動揺が隠せない。
絶対に顔が赤い。

離れようとしても蓮翔が私を離さなかった。

「おまえ、妬いてんの?」

「私が妬くわけないですよ。ただかりんさんが可愛そうだなって思っただけです。自分の彼氏が他の女性とイチャついてたら嫌だと思いますよ?」

「お前は嫌なの?他の女とイチャつかれると?」

「私に聞かないでください。本人に聞いたらどうです?」

「あー、いつまでも敬語使ってんなよ。イライラする。お前はもう秋帆ってバレてんの。なのに何で敬語なんだよ」

「塚本さんは、仕事でお知り合いになった方ですので、敬語で話すのは当然ですよ」

どこまでも知らないフリをした。

「お前がそこまで俺を他人扱いするなら、俺にも考えがある」

「お前が秋帆だって、分からせてやるよっ」

なっ、何をする気なの?
私の心臓はドクドクと音を立てる。

すぐにでも蓮翔から離れてここからいなくなりたいのに、何で離してくれないの?

「はっ、離して」

「離すかよ」

私の耳元で、蓮翔が、優しく言う。蓮翔も私のこと好きでいてくれる?なんて勘違いしてしまいそうになる。

私のことなんて何とも思ってないのに……。

きっと私の様子を見て楽しんでるだけだ。そんなことわかってるのに、わかっているはずなのに、蓮翔に抱きしめられて嬉しくなってしまう。離れたくないっていう気持ちが強くなってしまう。


好き過ぎて自分でもどうしていいのかわからない。

「秋帆……」

きゅ〜ん。心地良い風が身体中にゆっくり浸透するように、蓮翔の声も同じように私の身体に浸透してゆく。

「やっ、やめて」

抵抗して離れようとするが、蓮翔の力には、叶わない。

「それで、抵抗してるの?全然、力入ってないじゃん」

私を見て、笑う。
はぁ?ムッ、ムカつく。

そ、そうだった。

コイツはこういうヤツだった。
あ〜っ、忘れてた。
これが現実だ。

会っていない期間が長すぎて、私の中で美化しすぎてたんだ。
 
「な、何なの?人をからかって遊ぶのもいい加減にしてください」

恥ずかし過ぎる。少しでも私を好きなのかな?って思った自分が。

「ふふっ、可愛いなぁ…」

「はぁ、何言ってんの?馬鹿にしてるの?」

もう、蓮翔の言葉なんて信じない。

「正直な気持ちを言っただけだけど?」

冗談とも真剣ともとれる表情で、私を見つめる。

「そんなに私をからかって楽しい?本当、何様のつもり?」

私は、蓮翔を睨みつけた。

「お前こそ、何様なんだよっ」

「んんっ、ん」

えっ、何が起きたの?

唇に柔らかい感触。
前に触れた時と同じ。
蓮翔が私にキスしてるのがわかる。
私のこと好きでもないのにキスするなんて……。
どんどん激しくなるキスで私の思考は止まった。
また触れたことが嬉しくて、自分でも感じてるのがわかった。これ以上キスしちゃいけないのに、本能ではもっと欲しくて堪らない。

やっぱり私は蓮翔が好き。

再認識した私だけど、この気持ちを蓮翔に伝えたい。

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