何様のつもり?
高校の時は、蓮翔に好きな気持ちをからかわれたくなくて、この気持ちを大事にしたかった。

でも今なら、たとえからかわれても、遊ばれてもいい。

蓮翔なら傷ついても、愛されなくてもそばにいられるならなんて思ってしまう。

私はどうしたらいい?

蓮翔に抱きしめられなかったら、この温もりさえ知らなければ、こんな馬鹿な考えはしなかった。あのキスの想い出だけで満足できた。なのに抱きしめられて、そのうえキスまでされたら抑えが効かなくなってしまう。


なんで再会してしまったのだろう?


再会しなければ心の中だけで蓮翔を好きでいられた。でも会ってしまったら、蓮翔の何もかもが欲しくなる。

「仕返しだよっ」

「えっ?」

私から蓮翔の唇が離れて言われた言葉。

ずっと私のこと恨んでたってこと?

嫌いな女からいきなりキスされたらムカつくよね。

「ごっ、ごめんなさい。蓮翔の気持ちも知らないで勝手なことして……」

「本当、勝手だよな。俺の気持ちも知らないで.....」


切ない表情をする蓮翔。

「あの時のキスはどういう意味だったんだよっ」

「……」

私は、答えられずにいた。

私、本当に取り返しがつかない過ちを犯してしまった。
自分の感情だけを蓮翔に押し付けてしまった。こんなにも蓮翔が傷ついていたなんて、ぜんぜん知らなかった。
でも冷静に考えたらわかること。
なのに、自分の気持ちだけで行動を起こしてしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。

「もう、これで終わり。仕事も終了したし、もう私に会うこともないからっ」

「秋帆っ、待てよ。答えになってねぇよ」

私は、少し力を緩めた蓮翔から、素早く逃げた。

「ごめんなさい。私の事嫌いだったのに、あんなことしてしまって、傷つけてしまいました。もう、あなたの前に現れませんから、かりんさんとお幸せに。さよなら」

私は、社長室から急いで出た。

途中、滝野さんに会ったが、軽く挨拶をして会社から出た。
早くこの場から立ち去りたかった。



「蓮翔、ごめんなさい」

私は蓮翔の会社から出た後、何度も謝った。
仕返しをしたいほど私を恨んでたなんて……。

私が自分の都合で勝手にキスしたばかりに。蓮翔からはっきり言われると、1番辛い。本当に私のことが嫌いだったんだ。

私は泣きながら家に帰った。



どうやって帰ってきたのか覚えてない。

とにかく眠りたい。眠って何もかも忘れてしまいたい。泣いた酷い顔を洗って、熱いお風呂に入った。ふと思い出すのは、蓮翔の顔。まだ唇にまだ蓮翔の唇の感触が残ってる。


泣き疲れて寝た私は、翌日凄い顔になっていたのは、言うまでもない。こんな状態でも明日から3日間出張だ。人気の雑貨屋さんの取材で大阪まで行く。あつしさんと2人で行かなければならない。だから明日までに調子上げておかないとどこで突っ込まれるか、わかんない。

「よしっ」

私は両頬を叩いて気合いを入れた。

まずは家の掃除をして、気分をスッキリさせよう。

ショッピングに行こう。

最近、忙しくて全然行ってなかったから。いい気分転換になるはず。

今日は、散歩を兼ねているので、久しぶりにスニーカーとスキニージーンズ、Tシャツとラフな格好だ。目が腫れぼったいので伊達メガネを掛けた。

何も考えず夢中で、街を散策した。久しぶりに有意義な時間を過ごした。

あとは……
ぶらぶら歩いていると、偶然にも明日から取材に行く予定の雑貨屋さんの東京支店を発見。下見がてら覗いていこう。

店内は全体的にカラフルでインパクトのある雑貨が多い。女性にはウケるお店だな。でもそれだけはない。シックな落ち着いた色合いの物もあって、男性ウケも良さそうだ。

「可愛い……」

ビビットカラーを使ったメモ帳に一目惚れした。
色の種類は豊富だ。
だけど私が欲しかったのはピンク。

「お前らしいな……」

「あつしさん?」

「あぁ、お前、1人か?」

「そうですけど、あつしさんは彼女とですか?」

「はぁ?バーカ違うよ」

頭をポンと叩かれた。

「よく私ってわかりましたね」

「そりゃぁ、わかるだろっ」

「普段と服装を変えても私だってわかっちゃうんですね。まっ、背も大きいし、目立ちますもんね」

「お前、なんかあった?いつもと違うけど?なんかひねくれてると言うか、いつものポジティブ思考はどうした?」

「そりゃぁ、いつもよりポジティブではないですけど、何にもないですよ。あっ、明日からの取材宜しくお願いします」

「あぁ、自分ひとりで抱え込むなよ。いつでも相談に乗るからっ」

「ありがとうございます」

私はぺこりと頭を下げた。

この後、食事でもどうか?と聞かれたが、食欲がないため、丁重にお断りした。



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