何様のつもり?
蓮翔と別れたといっても、私の日常はあまり変わらなかった。

蓮翔と本当に付き合っていたのかな?

でも蓮翔に抱きしめられたときの温もりと、キスの感触だけが私に残っている。

高校のとき、蓮翔の前からいなくなったときと同じだ。

「私って何も変わってないなぁ……」

「どうしたの?なんか悩み事?」

「いや、私って昔と何も変わっていないなぁって思って……」

「珍しいわね。秋帆が悩むなんて」

「私だってたまには悩みますよ~」

「ははっ。そんな秋帆も可愛いわよ」

「もう、からかわないでください」

私はパソコンに向かい仕事を始めた。

「秋帆、結婚式には来れる?」

「はい、それまでには、納期間に合わせますから」

「忙しいのに、悪いわね」

「らんさんと颯さんの結婚式ですよ。絶対行きます」

「ははっ。じゃぁ、楽しみにしてるわね」

「はい。私もらんさんのウエディングドレス姿を見たいですから。今から楽しみなんです」

「あまり、無理しないで……帰れる時は、早く帰りなさいよ」

「はい、そうします」

あと少しで終わるから、やり終えてから帰ろう。

しばらくして、私はパソコンの電源を落とし、会社をあとにした。

会社を出ると、どしゃ降りの雨が降っていた。
仕事に集中していて、雨が降っていることに気が付かなかった。

「どうしようか?」

独り言を言いながら、雨の中帰ろうか悩んでいると、私の前に車が止まった。

「家まで送るよ」

「あつしさん、今日は休みですよね?何で会社の近くにいるんですか?」

「近くに用事があって、たまたま通りかかったんだよ。だから、送って行くよ。早く乗れっ」

「あっ、ありがとうございます」

私は、あつしさんに家まで送ってもらった。

「あつしさんもらんさん達の結婚式に出席するんですか?」

「あぁ、その日は撮影もないし、いつも世話になってるからなぁ。出ないと何言われるかわかんないからなぁ」

「ははっ。確かに凄くツッコまれそうです」

「秋帆は、出席するんだろ?」

「はい。編集長兼社長のらんさんの結婚式ですよ。出るに決まってるじゃないですか」

「だなっ」

あつしさんってこんな感じの人だったっけ?

なんかいつもチャラい感じの印象が強かったけど、今日は話しやすいな。

「結婚式の日、どうするんだ?」

「何がですか?」

「会場に行くの家からじゃ遠いだろ?」

「タクシーで行くから大丈夫です」

「家まで迎えに行こうか?」

「いいですよ。あつしさんのファンに怒られます。それに彼女さんにも。今日だって送ってもらうのためらったくらいですから」

「俺、彼女いないよ。それに秋帆は、勘違いしてると思うから言うけど、俺、誰にでもこういうことするわけじゃないから」

「え?あつしさん彼女いないんですか?」

私はあまりの驚きにあつしさんの顔を見た。

「かなり驚いた顔だなっ」

「はい。かなり?驚いていますよ」

「ははっ。秋帆は正直だな」

あつしさんの笑った顔が綺麗で見惚れてしまった。

「何だよ。そんな見つめるなよ」

「何で見てるのが分かるんですか?運転しているから前を向いているのに……」

私は恥ずかしくなって、あつしさんから目を逸らした。

少しの沈黙の後、私のマンションが見えてきた。車だとあっという間に着く。

「そこでいいですよ」

「あぁ……」

あつしさんの普段の言い方となんか違う気がする。

気のせいかな?

車が止まったのを確認して私は車を降りようとした。

「あつしさん、ありがとうございました。気をつけて帰ってください」

「あぁ……」

「どうかしました?」

「秋帆……いや、何でもない。また明日な」

「……はい、また明日」

私は、車から降りて雨に濡れないように急いでマンションに入った。
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