何様のつもり?
塚本蓮翔は、高校の時からかなりのイケメンでモデル並みのスタイル。確か身長は、185cmだ。一度だけ聞いたことがあるから、よく覚えている。
そして、いつも私にちょっかいを出す。
何かにつけて絡んでくる。初めは、何なの?って怒っていたが、それが習慣化すると何も絡んでこないほうが心配になってしまうくらいだ。そして私はいつの間にか好きになっていった。
高校に入学して、初めのころは、背の高い私を男子は「でけぇ」、「こえぇ」すれ違うたびに囁かれ、女子からは「男みたい」「あそこまで大きくなりたくない」など言われ、どこに行っても同じなんだぁって、諦めた。
でも私は人生を後悔したくなかった。
1人でもいい。友達なんかいらない。中学の時みたいにウジウジして時間を無駄にしたくない。それだけは嫌だった。
私の人生は私のもの。
だから、開き直った。そんな決意をした私の隣の席には、塚本蓮翔がいた。彼も背が高い。なのに、彼の周りには常に人がいた。やっぱり男と女じゃ違うんだって改めて思った。
周りの女子からは、かなりモテてたみたいだ。蓮翔が通るたびに皆が振り返っていたのは、覚えてる。
でも、私は、蓮翔に興味がなかった。
もともと人を観察するほうではなかったし、ジロジロ見るのは好きじゃない。だから、単なるクラスメイトの1人にすぎなかった。なのに、ちょくちょく声をかけてくるようになった。
「教科書、忘れたから見せて……」
「……いいよ」
そんな会話から始まり、1学期が終わるころには、
「秋帆、俺今日メロンパンは絶対な」
「は~ぁ?」
「何で私が蓮翔のパンを購買に買いに行かなきゃいけないの?ほんと何様のつもり?」
「俺様だけど……なんか文句あるのかよ」
こんな会話をする仲になった。私もなんだかんだ言って、結局買いに行ってしまう。馬鹿なのかっていつも思う。
蓮翔は、何かにつけ私に絡んできた。始めは本当関わりたくなかった。だって、2人でいたら目立つ、目立つ。蓮翔は、モデル並みのイケメン。私は、ただ背が高いだけだがデカデカコンビだから。
うちの高校は3年間ずっと同じクラスだ。だから、蓮翔ともずっと一緒。
それが良いような悪いような……。
複雑な気持ちになったのは、高校2年になってからだ。1年の時よりも蓮翔が告白されている回数が増えた。何故なら、1年の時は、私が彼女かもっていう噂があり、みんなあまり告白する人がいなかったのだ。だが、ある日、勇気のある女子が蓮翔に聞いたらしい。私と付き合っているのかと……。
そう聞かれて蓮翔は……。有り得ないと答えたらしい。
こうして、私の初恋は幕を閉じた。
だから、今まで通りに接していくことが、蓮翔と一緒にいられる方法だった。
翌日になると、蓮翔はフリーだという噂があっという間に広がり、告白されることが多くなった。昼休み、放課後、呼び出される回数が多くなった。
その度に私の心はチクッと痛んだ。
告白されても、いつも断っている。
理由は、分からないが、彼女は作らなかった。その事が嬉しかった。
相変わらず私にちょっかいを出してくるし、本当に何を考えているのかわからない。
私のことなんかほっといてくれればいいのに……。
本人から言われたわけではないのに、かなりショックを受けた自分がいた。蓮翔にとっては、ただの暇つぶしか、パシリくらいにしか思ってないのだろう。
私は蓮翔のことが好きなこと。この気持ちを蓮翔が気づいてしまえば、今の関係が壊れてしまう。
それだけは避けたかった。
でも人間というのは、欲張りな生き物だ。少なくとも私は、そうだ。蓮翔には、私だけを見て欲しかったんだと思う。だから、私の気持ちに気づいて欲しくないって思っていても、心のどこかで気づいてほしい。できれば、蓮翔も同じ気持ちであってほしいなんて思ってしまうのだ。
複雑な気持ちを抱えながらの学校生活。
蓮翔ともう会うことはないと決意したあの出来事。今でも鮮明に覚えている。
あれは、3年の文化祭の時だった。うちのクラスは、カフェを営業した。ウェイターには、もちろん蓮翔。あとは蓮翔の友達。ウェイトレスには、クラスの可愛らしい女子がなった。私は、裏方。もともと料理は得意だったので、私にとってはよかった。
それに女子からたくさん声をかけられている蓮翔を見たくなかった。私は、蓮翔を見ないように、料理に集中した。裏方はかなりハードでなかなか抜け出せない。でもいいかな〜なんて思っていた。
「秋帆、休憩行くぞ」
「私、まだ行けないから勝手に行って……」
なんで私を誘うの?本当に何考えてるのかわからない。
「いいから……」
蓮翔は、私の腕を掴みカフェを後にした。
「ちょ、ちょっと〜。強引すぎじゃない?」
「……」
なんで何も言ってくれないの?
それに少し怒っているようにも見えるし……。私、何かしたかな?でも今日は、ほとんど会っていなかった……。何でだろう?
「蓮翔?」
「……怒ってる?」
「……怒ってねぇよっ」
「怒ってるじゃん…」
「うっせぇ…」
これ以上、言ってもイライラさせるだけだから黙っていた。
蓮翔が連れてきたのは、屋上だった。
「はぁ〜」
「……ふふっ」
「何だよ?」
「何でもな〜い」
情けないため息が可愛かったなんて絶対言えない。
ブブ……。
蓮翔のスマホが鳴った。
「何?……あぁ、今行く」
蓮翔は、面倒くさそうに舌打ちした。
「どうかした?」
「カフェが俺待ちで長蛇の列ができてるらしい」
「すっ、すごいじゃん。モテる男は違うねぇ。ほら、行った行った」
私は、蓮翔の背中を押した。
「お前は?」
「私?」
「あぁ……」
「私はもう少し休んでいくよ」
「あ〜っ、じゃぁ、焼きそばとたこ焼きな」
「えっ?」
「えっじゃねぇよ。買ってこい。あと、カフェオレもな」
「何でそうなるわけ?」
「当たり前だろ。俺の食べるものを買いに行けるだけ、ありがたく思えよ」
「本当、何様のつもり?」
「ははっ。まだ分かんねぇのかよ。俺様だよ」
バカ……。
あんな笑顔魅せられたら、買いに行くに決まってるじゃん。
そんなこんなで、文化祭も最終日を迎え、最後は打ち上げだ。私は、片付けが長引いて、1人、静かな教室にいた。校庭では、先生や生徒が沢山いた。その様子を教室から眺めていた。
「蓮翔もあの中にいるのかな?」
静かな教室に1人は……ちょっと寂しい。高校に入ってからは、いつも蓮翔がいてくれたから寂しいなんて思わなかった。
ヤバい。泣きそうだ。
蓮翔に気持ちを伝えたい。
でも、この関係が崩れるのは嫌だ。だから我慢すればいいのに、それができない。蓮翔の前では、笑顔でいたいのに、切ない気持ちでいっぱいだった。蓮翔を思えば思うほど、泣きたい気持ちになる。
「蓮翔、好きだよ……」
1人の時ならいいよね?蓮翔への気持ちを言っても……。蓮翔へのあふれる気持ちを抑えることが出来なかった。
ここにいるのは、私1人だけだと思っていた。
なのに、よりによって蓮翔がいたなんて……。
「秋帆?」
蓮翔が心配そうに教室に入って来た。
「……」
私は、何も声に出すことが出来なかった。
「秋帆?……泣いてるのか?」
私のほうに近づいてくる蓮翔。
これ以上近づかないで。そうじゃないと私……。
自分の気持ちを抑えることができなくなってしまう。なのに気にすることなく私に近づいてくる。こんな時くらい遠慮してよ。私は、そっと涙を拭いた。
「お疲れ……」
蓮翔は私にいちごミルクをくれた。今日ばっかり優しすぎる。
「……ありがとう」
私はかすれた声でお礼を言った。のどが渇いていたので、一気に飲み干した。
「な~んだ、元気じゃん」
蓮翔は、ホッとしたように、カフェオレを飲み干した。
やっぱりそんなもんだよね~。
蓮翔にとっては、私のことなんて大したことないもんね。
何で泣いてるの?って聞いておいて.......
蓮翔の中では、気にすることじゃないんだよね?
そう思ったら、涙がこぼれそうになった。
でも、我慢。
私の弱い部分を見せるわけにはいかないから。
こんな思いをしているのは、私だけ。
はぁ、馬鹿らしい。
こんな男を好きになった自分に腹が立ってきた。
鈍感なのか?
わかっててとぼけてるのか?
ホント何を考えているのかわからない。
「打ち上げいかないの?」
「なんかめんどくせぇ。お前は?」
「私は……なんか疲れちゃったから行かない」
「あっ、そう」
どれほどの沈黙があったのかわからないけど、私には長く感じた。
何か話してよ。
そう思っても、もともと蓮翔はベラベラ話すほうではないからしょうがないかぁ……。
私をからかったり、パシリに使う時はよく喋るのに……。
本当、不思議な男だ。
「なぁ……」
「何?」
「お前さぁ……」
「……うん」
何、この言いづらそうな感じ……。
私は嫌な予感がした。
「秋帆は、俺のこと好きなの?」
「……そんなわけないじゃん」
ばっ、ばれた。やっぱりさっきの私の声聞こえてたのかなぁ~。
ここはとぼけるしかないなぁ。
「……でもさっき、俺のこと好きって言ってなかったか?」
私を覗くように顔を向ける。
「なっ、何よ……言ってないよ。そんなこと」
再び、私の顔を覗き込んでくる蓮翔。
あまり近寄らないでよ。
心臓の音が聞こえちゃうじゃん。
それに、泣いてたからよけい、ブサイクだし…。
「……そうだよなぁ。秋帆が、俺のこと好きになるわけないよなぁ。そんなの有り得ねぇ」
「……」
ホッとしている蓮翔を見たら、なんかムカついてきた。
蓮翔は、私が好きだったら迷惑なんでしょ?
私に対して、女を感じてないんでしょ?
言いたいことはたくさんあるのに……。怖くて聞けない。
でも、好きで堪らない。私は今までの関係をぶち壊してでもこの気持ちを伝えたくなってきた。
でも、好きなんて言ってやらない。
私はあえて行動に出た。
蓮翔の驚く顔が見たくて……。
これが、私から蓮翔に対する嫌がらせ。
私は、油断してる蓮翔の頬を両手で挟んで、逃げられないようにロックした。
「……んんっ」
蓮翔にキスをした。蓮翔の唇は柔らかくて、温かかった。私の気持ちを込めて、軽いキスをした。
大好きだよ、蓮翔。
「おまっ……」
口が少し開いたところで、蓮翔の舌に自分の舌を絡ませた。
蓮翔の唇を舐め尽くし、口内も舐め回した。
初めてのキスなのに、蓮翔の唇が気持ち良くて止めることができなかった。
蓮翔も初めは戸惑っていたけど、私のキスに答えるように舌を絡めてきた。キスだけでこんなに感じてしまうのだ。トロトロに溶けてしまう……。その先も求めてしまいそうになるのを必死で堪えた。
なんでこんなにキスが上手いの?
蓮翔はきっとファーストキスじゃないんだね。
モテモテの蓮翔だし、今までも彼女くらいいたよね?
たくさんの女性の中のひとりでもいいから、
私とのキスを覚えてて……。
蓮翔の中で忘れられない女になりたかった。私を忘れないで。これでおしまいにするから。
明日からは、ただの友達。
唇を離すと、蓮翔は、ちょっと照れたような顔をした。
「蓮翔……」
「なっ、何だよ」
「バイバイ……」
「はっ?秋帆、何言ってんの?」
私は蓮翔の前から走っていなくなった。
蓮翔は、何か言いたそうだったが、私は無理だった。きっと、確実に嫌われたから。
好きでもない女性にいきなりキスされたのだ。
「蓮翔、ごめんね」
私の都合だけで、こんなことして。
家に帰るまで、しばらく泣き続けた。
そして次の日から、学校に行かなくなった。というか行けなくなった。
文化祭から帰った日。
急遽決まった父親の転勤で引っ越しが決まった。
本当は、私だけ1人暮らしをして、今の高校に通うという案も出た。
でもちょうどいい機会だと思った。
蓮翔が好き過ぎてどうしたらいいのかわからなかったから。
私は、蓮翔から逃げる決意をした。
ほんとはただの弱虫。
情けないのは分かってる。
分かってるけど、蓮翔のことだけはいつも弱気な自分になってしまう。
だから家族と一緒に引っ越した。
新しい学校で新しい出会いを。
と、思ったが私の心はずっと蓮翔を好きなままだった。
忘れたくても忘れられない人。
だから、今でも蓮翔に恋をしている。あのキスを想い出すたびに、胸が締め付けられる。心の中にいるのは、いつも蓮翔だけ。
でもこのことは、誰にも言えないし、誰にも言う気はない。
だからこんな風にまた再会するなんて思ってもみなかった。
再会した今、私の気持ちは、蓮翔に知られてはいけない。また、高校の時みたいに隠さなければいけなくなってしまった。
そして、いつも私にちょっかいを出す。
何かにつけて絡んでくる。初めは、何なの?って怒っていたが、それが習慣化すると何も絡んでこないほうが心配になってしまうくらいだ。そして私はいつの間にか好きになっていった。
高校に入学して、初めのころは、背の高い私を男子は「でけぇ」、「こえぇ」すれ違うたびに囁かれ、女子からは「男みたい」「あそこまで大きくなりたくない」など言われ、どこに行っても同じなんだぁって、諦めた。
でも私は人生を後悔したくなかった。
1人でもいい。友達なんかいらない。中学の時みたいにウジウジして時間を無駄にしたくない。それだけは嫌だった。
私の人生は私のもの。
だから、開き直った。そんな決意をした私の隣の席には、塚本蓮翔がいた。彼も背が高い。なのに、彼の周りには常に人がいた。やっぱり男と女じゃ違うんだって改めて思った。
周りの女子からは、かなりモテてたみたいだ。蓮翔が通るたびに皆が振り返っていたのは、覚えてる。
でも、私は、蓮翔に興味がなかった。
もともと人を観察するほうではなかったし、ジロジロ見るのは好きじゃない。だから、単なるクラスメイトの1人にすぎなかった。なのに、ちょくちょく声をかけてくるようになった。
「教科書、忘れたから見せて……」
「……いいよ」
そんな会話から始まり、1学期が終わるころには、
「秋帆、俺今日メロンパンは絶対な」
「は~ぁ?」
「何で私が蓮翔のパンを購買に買いに行かなきゃいけないの?ほんと何様のつもり?」
「俺様だけど……なんか文句あるのかよ」
こんな会話をする仲になった。私もなんだかんだ言って、結局買いに行ってしまう。馬鹿なのかっていつも思う。
蓮翔は、何かにつけ私に絡んできた。始めは本当関わりたくなかった。だって、2人でいたら目立つ、目立つ。蓮翔は、モデル並みのイケメン。私は、ただ背が高いだけだがデカデカコンビだから。
うちの高校は3年間ずっと同じクラスだ。だから、蓮翔ともずっと一緒。
それが良いような悪いような……。
複雑な気持ちになったのは、高校2年になってからだ。1年の時よりも蓮翔が告白されている回数が増えた。何故なら、1年の時は、私が彼女かもっていう噂があり、みんなあまり告白する人がいなかったのだ。だが、ある日、勇気のある女子が蓮翔に聞いたらしい。私と付き合っているのかと……。
そう聞かれて蓮翔は……。有り得ないと答えたらしい。
こうして、私の初恋は幕を閉じた。
だから、今まで通りに接していくことが、蓮翔と一緒にいられる方法だった。
翌日になると、蓮翔はフリーだという噂があっという間に広がり、告白されることが多くなった。昼休み、放課後、呼び出される回数が多くなった。
その度に私の心はチクッと痛んだ。
告白されても、いつも断っている。
理由は、分からないが、彼女は作らなかった。その事が嬉しかった。
相変わらず私にちょっかいを出してくるし、本当に何を考えているのかわからない。
私のことなんかほっといてくれればいいのに……。
本人から言われたわけではないのに、かなりショックを受けた自分がいた。蓮翔にとっては、ただの暇つぶしか、パシリくらいにしか思ってないのだろう。
私は蓮翔のことが好きなこと。この気持ちを蓮翔が気づいてしまえば、今の関係が壊れてしまう。
それだけは避けたかった。
でも人間というのは、欲張りな生き物だ。少なくとも私は、そうだ。蓮翔には、私だけを見て欲しかったんだと思う。だから、私の気持ちに気づいて欲しくないって思っていても、心のどこかで気づいてほしい。できれば、蓮翔も同じ気持ちであってほしいなんて思ってしまうのだ。
複雑な気持ちを抱えながらの学校生活。
蓮翔ともう会うことはないと決意したあの出来事。今でも鮮明に覚えている。
あれは、3年の文化祭の時だった。うちのクラスは、カフェを営業した。ウェイターには、もちろん蓮翔。あとは蓮翔の友達。ウェイトレスには、クラスの可愛らしい女子がなった。私は、裏方。もともと料理は得意だったので、私にとってはよかった。
それに女子からたくさん声をかけられている蓮翔を見たくなかった。私は、蓮翔を見ないように、料理に集中した。裏方はかなりハードでなかなか抜け出せない。でもいいかな〜なんて思っていた。
「秋帆、休憩行くぞ」
「私、まだ行けないから勝手に行って……」
なんで私を誘うの?本当に何考えてるのかわからない。
「いいから……」
蓮翔は、私の腕を掴みカフェを後にした。
「ちょ、ちょっと〜。強引すぎじゃない?」
「……」
なんで何も言ってくれないの?
それに少し怒っているようにも見えるし……。私、何かしたかな?でも今日は、ほとんど会っていなかった……。何でだろう?
「蓮翔?」
「……怒ってる?」
「……怒ってねぇよっ」
「怒ってるじゃん…」
「うっせぇ…」
これ以上、言ってもイライラさせるだけだから黙っていた。
蓮翔が連れてきたのは、屋上だった。
「はぁ〜」
「……ふふっ」
「何だよ?」
「何でもな〜い」
情けないため息が可愛かったなんて絶対言えない。
ブブ……。
蓮翔のスマホが鳴った。
「何?……あぁ、今行く」
蓮翔は、面倒くさそうに舌打ちした。
「どうかした?」
「カフェが俺待ちで長蛇の列ができてるらしい」
「すっ、すごいじゃん。モテる男は違うねぇ。ほら、行った行った」
私は、蓮翔の背中を押した。
「お前は?」
「私?」
「あぁ……」
「私はもう少し休んでいくよ」
「あ〜っ、じゃぁ、焼きそばとたこ焼きな」
「えっ?」
「えっじゃねぇよ。買ってこい。あと、カフェオレもな」
「何でそうなるわけ?」
「当たり前だろ。俺の食べるものを買いに行けるだけ、ありがたく思えよ」
「本当、何様のつもり?」
「ははっ。まだ分かんねぇのかよ。俺様だよ」
バカ……。
あんな笑顔魅せられたら、買いに行くに決まってるじゃん。
そんなこんなで、文化祭も最終日を迎え、最後は打ち上げだ。私は、片付けが長引いて、1人、静かな教室にいた。校庭では、先生や生徒が沢山いた。その様子を教室から眺めていた。
「蓮翔もあの中にいるのかな?」
静かな教室に1人は……ちょっと寂しい。高校に入ってからは、いつも蓮翔がいてくれたから寂しいなんて思わなかった。
ヤバい。泣きそうだ。
蓮翔に気持ちを伝えたい。
でも、この関係が崩れるのは嫌だ。だから我慢すればいいのに、それができない。蓮翔の前では、笑顔でいたいのに、切ない気持ちでいっぱいだった。蓮翔を思えば思うほど、泣きたい気持ちになる。
「蓮翔、好きだよ……」
1人の時ならいいよね?蓮翔への気持ちを言っても……。蓮翔へのあふれる気持ちを抑えることが出来なかった。
ここにいるのは、私1人だけだと思っていた。
なのに、よりによって蓮翔がいたなんて……。
「秋帆?」
蓮翔が心配そうに教室に入って来た。
「……」
私は、何も声に出すことが出来なかった。
「秋帆?……泣いてるのか?」
私のほうに近づいてくる蓮翔。
これ以上近づかないで。そうじゃないと私……。
自分の気持ちを抑えることができなくなってしまう。なのに気にすることなく私に近づいてくる。こんな時くらい遠慮してよ。私は、そっと涙を拭いた。
「お疲れ……」
蓮翔は私にいちごミルクをくれた。今日ばっかり優しすぎる。
「……ありがとう」
私はかすれた声でお礼を言った。のどが渇いていたので、一気に飲み干した。
「な~んだ、元気じゃん」
蓮翔は、ホッとしたように、カフェオレを飲み干した。
やっぱりそんなもんだよね~。
蓮翔にとっては、私のことなんて大したことないもんね。
何で泣いてるの?って聞いておいて.......
蓮翔の中では、気にすることじゃないんだよね?
そう思ったら、涙がこぼれそうになった。
でも、我慢。
私の弱い部分を見せるわけにはいかないから。
こんな思いをしているのは、私だけ。
はぁ、馬鹿らしい。
こんな男を好きになった自分に腹が立ってきた。
鈍感なのか?
わかっててとぼけてるのか?
ホント何を考えているのかわからない。
「打ち上げいかないの?」
「なんかめんどくせぇ。お前は?」
「私は……なんか疲れちゃったから行かない」
「あっ、そう」
どれほどの沈黙があったのかわからないけど、私には長く感じた。
何か話してよ。
そう思っても、もともと蓮翔はベラベラ話すほうではないからしょうがないかぁ……。
私をからかったり、パシリに使う時はよく喋るのに……。
本当、不思議な男だ。
「なぁ……」
「何?」
「お前さぁ……」
「……うん」
何、この言いづらそうな感じ……。
私は嫌な予感がした。
「秋帆は、俺のこと好きなの?」
「……そんなわけないじゃん」
ばっ、ばれた。やっぱりさっきの私の声聞こえてたのかなぁ~。
ここはとぼけるしかないなぁ。
「……でもさっき、俺のこと好きって言ってなかったか?」
私を覗くように顔を向ける。
「なっ、何よ……言ってないよ。そんなこと」
再び、私の顔を覗き込んでくる蓮翔。
あまり近寄らないでよ。
心臓の音が聞こえちゃうじゃん。
それに、泣いてたからよけい、ブサイクだし…。
「……そうだよなぁ。秋帆が、俺のこと好きになるわけないよなぁ。そんなの有り得ねぇ」
「……」
ホッとしている蓮翔を見たら、なんかムカついてきた。
蓮翔は、私が好きだったら迷惑なんでしょ?
私に対して、女を感じてないんでしょ?
言いたいことはたくさんあるのに……。怖くて聞けない。
でも、好きで堪らない。私は今までの関係をぶち壊してでもこの気持ちを伝えたくなってきた。
でも、好きなんて言ってやらない。
私はあえて行動に出た。
蓮翔の驚く顔が見たくて……。
これが、私から蓮翔に対する嫌がらせ。
私は、油断してる蓮翔の頬を両手で挟んで、逃げられないようにロックした。
「……んんっ」
蓮翔にキスをした。蓮翔の唇は柔らかくて、温かかった。私の気持ちを込めて、軽いキスをした。
大好きだよ、蓮翔。
「おまっ……」
口が少し開いたところで、蓮翔の舌に自分の舌を絡ませた。
蓮翔の唇を舐め尽くし、口内も舐め回した。
初めてのキスなのに、蓮翔の唇が気持ち良くて止めることができなかった。
蓮翔も初めは戸惑っていたけど、私のキスに答えるように舌を絡めてきた。キスだけでこんなに感じてしまうのだ。トロトロに溶けてしまう……。その先も求めてしまいそうになるのを必死で堪えた。
なんでこんなにキスが上手いの?
蓮翔はきっとファーストキスじゃないんだね。
モテモテの蓮翔だし、今までも彼女くらいいたよね?
たくさんの女性の中のひとりでもいいから、
私とのキスを覚えてて……。
蓮翔の中で忘れられない女になりたかった。私を忘れないで。これでおしまいにするから。
明日からは、ただの友達。
唇を離すと、蓮翔は、ちょっと照れたような顔をした。
「蓮翔……」
「なっ、何だよ」
「バイバイ……」
「はっ?秋帆、何言ってんの?」
私は蓮翔の前から走っていなくなった。
蓮翔は、何か言いたそうだったが、私は無理だった。きっと、確実に嫌われたから。
好きでもない女性にいきなりキスされたのだ。
「蓮翔、ごめんね」
私の都合だけで、こんなことして。
家に帰るまで、しばらく泣き続けた。
そして次の日から、学校に行かなくなった。というか行けなくなった。
文化祭から帰った日。
急遽決まった父親の転勤で引っ越しが決まった。
本当は、私だけ1人暮らしをして、今の高校に通うという案も出た。
でもちょうどいい機会だと思った。
蓮翔が好き過ぎてどうしたらいいのかわからなかったから。
私は、蓮翔から逃げる決意をした。
ほんとはただの弱虫。
情けないのは分かってる。
分かってるけど、蓮翔のことだけはいつも弱気な自分になってしまう。
だから家族と一緒に引っ越した。
新しい学校で新しい出会いを。
と、思ったが私の心はずっと蓮翔を好きなままだった。
忘れたくても忘れられない人。
だから、今でも蓮翔に恋をしている。あのキスを想い出すたびに、胸が締め付けられる。心の中にいるのは、いつも蓮翔だけ。
でもこのことは、誰にも言えないし、誰にも言う気はない。
だからこんな風にまた再会するなんて思ってもみなかった。
再会した今、私の気持ちは、蓮翔に知られてはいけない。また、高校の時みたいに隠さなければいけなくなってしまった。