冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「ただ今、リアム様がお戻りになられました」
庭木を濡らしていた春の雨が止んだ夜、ローガンがリリーを呼びにやってきた。
それはリリーが、『リアムが帰ってきたらすぐに、知らせてほしい』とローガンに頼んでいたためだ。
知らせを聞いたリリーはすでに眠っていたオリビアをソフィアに任せると、邸の二階にあるリアムの部屋へとひとりで向かった。
(結局、あれから随分と日にちが経ってしまったわ)
オリビアが庭で行方不明になり、ダスターからリアムの話を聞いた日から、今日で四日が過ぎたところだ。
あのときダスターは『リアムは明後日の夜には邸に戻る』と言っていたが、結局今日までリアムが邸に帰ってくることは一度もなかった。
「失礼いたします、リリーです。夜分遅くに申し訳ありません」
リアムの部屋の扉の前に立ち、リリーが中に声をかけるとすぐに、「入れ」という低い返事が返ってきた。
「……どうした。こんな夜更けに、きみが俺の呼び出しでもなく部屋を訪ねてくるとは、何か急ぎの用事でもあったのか?」
ひとりで訪ねてきたリリーを前に、リアムは驚きを隠せない様子だった。
ローガンには予めリリーが部屋に向かうことは伝えてもらっていたものの、リリー自らが自分の部屋に来たことが未だに信じられないという顔をしている。
「任務でお疲れのところ、本当にごめんなさい。急ぎの用事……というわけでもないのだけれど、どうしても今晩のうちにあなたと話しておきたいことがあって」
リリーがそう言って長いまつ毛を伏せると、水滴が落ちたあとの水面のような沈黙がふたりのことを包み込んだ。
急ぎの用事でないのなら、明日の朝でもいい。
けれど、また、いつリアムが任務のために王都に行ってしまうかもわからず、リリーはこの機を逃してはならないと考えていたのだ。