冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「……先日は、オリビアを探すのに協力してくれて、ありがとう。おかげで無事にオリビアを見つけることができたわ」
しばしの沈黙を破ったのはリリーだ。
リリーの言葉を聞いたリアムは、一瞬返事に迷う素振りを見せてから、「ああ」と曖昧な相槌を打った。
「いや……。あのときは任務もあり、すぐに王都に戻ってしまったが、あのあとオリビアが取り乱すようなことはなかったか?」
リアムの問いに、リリーは首を横に振る。
「ええ、大丈夫だったわ。もちろん、勝手に私たちから離れてはいけないとオリビアには言い聞かせたけれど、あの子もここの暮らしに慣れてきたみたいで、毎日笑顔で過ごしているから」
リリーの返事に、リアムはほっとしたように息をついた。
「……そうか。それならよかった。だが、もしも何か不自由に感じることがあればローガンに言うといい。ローガンには、その都度すぐに対応するようにと言ってある」
そう言うとリアムは、バルコニーに続く窓を閉めるためにリリーに背を向けた。
任務から帰ってきたばかりのリアムはまだ黒い軍服姿で、着ていたコートを重そうに脱ぎ始める。
「……今は、随分、任務が忙しいの?」
「ああ……。きみに以前話したとおり、まだウォーリック国王が行方不明のままでな」
「そう……」
「加えて、懲りずにグラスゴーの兵たちがウォーリック周辺をうろついていたり、ラフバラの王宮内で抱かれてしまったアイザック王子への疑いも未だに晴れたわけではない」
コートをバサリとデスクチェアの背にかけたリアムは、窓のガラスに手を添えると、夜空に浮かぶ月を見上げた。
月明かりを浴びた彼の後ろ姿はしなやかで美しく、まるで高尚な作家が創り上げた芸術品のようにも見える。
淡く白い光に包まれたリアムの姿に、リリーは時を忘れたように見惚れてしまった。