冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「リ、リリー? 今すぐ、離れたほうがいい。俺はまだ軍服を着たままだから、きみのことまで汚してしまうかもしれな──」
「……っ、あなたは、汚れてなんていないわ!」
「リリー……?」
「ううん、ごめんなさい……っ。私が……私が、馬鹿だったの。何も知らずにあなたを傷つけるようなことばかり言って、本当に本当に、ごめんなさい!」
リリーの声が、涙で濡れた。
それに気がついたリアムは、自身の身体に回されたリリーの腕を掴もうとして、既のところで手を止める。
「これまで私は、あなたは私を利用することしか考えていないと思っていたわ。あなたに妻にすると言われてからも、それも私を懐柔させるための嘘だと疑ってばかりいた」
ラフバラの聖騎士団の騎士団長を務めるリアムは、ウォーリックの王女であるリリーを政治的に利用することしか考えていないと勘ぐっていたのだ。
「でも、事実、あなたは二度もオリビアを助けてくれた。それだけでなく、今、あなたは私たちを人質として監禁するどころか、自分の大事な邸に住まわせ、何不自由ない暮らしをさせてくれている」
まだ、ここへきてたった一週間しか経っていない。
けれどオリビアは一度も、ウォーリックの花園へ帰ろう、あの場所が恋しいと言って泣いたりはしなかった。
それは間違いなく、この邸の持つ温かな空気のおかげだろう。
リアムが用意してくれた環境が、オリビアにも安心感を与えてくれているのだ。
「ローガンさんにも、とてもよくしていただいているわ。お花も、毎日欠かさず贈ってくれて、ありがとう。オリビアも、あなたから貰ったうさぎのぬいぐるみを毎日大切に抱いて眠っているの。以前、あれらをローガンさんを通して届けてくれたのは、あなたなんでしょう?」
リリーの質問に、リアムは頷かなかった。
けれどオリビアが今大事にしているぬいぐるみは間違いなくリアムが用意したものと同じで、そうなれば必然的に、ペリドットのイヤリングもリアムが用意したものということになる。
初めはリアムに対して嫌悪を顕にしていたソフィアですら、今はわずかに感謝の想いをいだいているほどなのだ。
実際、今日、リリーがリアムの部屋を訪ねると言ったときにも、彼女は前回のように真っ向から異を唱えたりはしなかった。
もちろんそれは、先日ダスターから聞いたリアムの話を、リリーがソフィアにも伝えたことが大きいだろう。
話を聞いたソフィアは難しい顔をしていたが、少なくともリアムに対する印象に大きな変化があったようだった。