冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「お父様は昔から、ウォーリックの民のことだけでなく、娘である私のことすら顧みない人だったわ。私はお父様の娘である以前に、政治的利用価値のあるものとしか考えてられていなかった。肉親にすら、そのような考え方しかできない人だもの。民への慈悲など、持ち合わせていなくて当然よね」
そんな父をリリーは、いつの間にか尊敬できなくなっていた。
早くに亡くなったリリーの母も、自分が亡き後の子供たちやウォーリックのことを考え、最期まで心を痛めていたほどだ。
「そして、私が嫁ぐはずだったグラスゴー王国のエドガーも、父と同じ部類の人よ。ふたりは、とてもよく似ている。己の欲望のためなら、どれだけの尊い命が犠牲になろうと構わない。人の上に立つには、あまりに浅はかで幼い考え方しかできない人たちよ」
唇を噛み締めたリリーは、お腹の前で強く拳を握りしめた。
いなくなった父を心配する気持ちもあるが、こんなときにまで兄のアイザックの足を引っ張り、平和を脅かす父の存在を、情けなく思っている自分がいるのだ。
「でも……あなたは、リアムはそんな父やエドガーとは違うと、私はようやく気がついたの」
ゆっくりと顔を上げたリリーは拳を解くと、リアムの左目の眼帯へと手を伸ばした。
「あなたは自らを犠牲にしてでも、世の中を変えようとしている人」
まるで花に止まる蝶のように優しく眼帯に触れたリリーの目から、涙が一筋、頬を伝ってこぼれ落ちた。
「あなたがしていることは、誰にでもできることではないわ。だからあなたは……決して、汚れてなんていない」
リアムがしていることは大きな覚悟と信念がなければ、成し遂げることなど到底できないことに違いない。
リアムは常に最前線に立ち、自らの手と心を痛めながら、困難に立ち向かってきた人なのだ。
「だから私は……あなたのことを、信じるわ」
そう言うとリリーは、眼帯からおろした手でリアムの手に触れた。
(大きくて、温かい手……)
どこか覚えのあるその手の温かさにリリーはまた疑問を感じたが、それはすぐにリアムによってかき消されてしまった。