冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「……は、ぁ。リア、ム」
「リリーのそんな顔は、誰にも見せたくないな」
長い長いキスを終えると、リアムはリリーの濡れた唇を親指の腹で優しくなぞった。
そして今度はリリーの隣に腰を下ろして、再び彼女の身体を優しく抱き寄せる。
リアムは本当に、これより先をするつもりはないらしい。
ただ、リリーを宝物のように腕の中に閉じ込めるだけの彼の真摯な想いに気づいたリリーは、また胸を強く打たれた。
「ねぇ、リアム」
「どうした?」
「もし……私がいつか本当にあなたの妻になったら、オリビアは、あなたの娘ということになるのよね」
「……ああ、そうだな」
「だったらその日が来る前に、オリビアにも、あなたのことを知ってほしいわ。これまでオリビアは父という存在を知らずに生きてきたけれど、不思議とあなたのことは受け入れてくれるような気がするの」
まだぼんやりとした頭の中で思ったことを、リリーは口にした。
オリビアは産まれたときから一度も、父という存在に触れたことがない。
庭園から出たこともないので父親という存在を意識したこともなく、リリー自身も敢えてオリビアに説明してこなかった。
「オリビアに、触れてもいいのか?」
けれど今、恐る恐る自分に尋ねるリアムならば、オリビアもいずれ彼を父として認めてくれるに違いないという漠然とした自信がリリーにはあった。
何よりリアムならきっと、リリーを愛するようにオリビアのことも娘として愛してくれる。
そう思うのは、彼が冷酷無比と言われる裏に、大きな優しさを隠した人であると知ったからだ。
「もう、オリビアと会うことも許してくれるということか?」
「ええ……。あのときは、酷いことを言ってしまってごめんなさい。それに、今更こんなことを言うのは自分勝手なことだとわかってはいるのだけれど」
そっと目を伏せたリリーは、改めてリアムを見上げた。
「そもそも、あなたはオリビアの命の恩人だったのに。オリビアにも、あのうさぎのぬいぐるみをくれたのはあなただと、きちんと伝えて説明するわ」
リリーがそう言って微笑むと、リアムはこれまでで一番幸せそうな笑みを浮かべた。
その笑顔を見たリリーの胸にはまた、淡い想いの蕾が芽吹く。
(ああ、私はきっと、この人のことを……)
それはいつかも抱いた感情と、よく似ていた。
暗闇の中で手を伸ばしたリリーを抱きしめ返してくれた、あの晩の彼に抱いた気持ちとよく似たこの想いの名前をリリーはすでに知っている。