冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「オリーブには、平和という花言葉があると……俺も子供の頃に、母から聞いたことがある」
「え……?」
リアムの言葉に、リリーは落としていた視線をゆっくりと持ち上げた。
「意外だわ、あなたが花ことばまで知っていたなんて……。オリーブの花ことばである平和は、旧約聖書の創世記に記された、ノアの方舟の物語に由来するといわれているものよね?」
「ああ、そうだ。だから三年前に、この邸の庭師に頼んで、庭にオリーブの木を植えてもらったんだ」
「三年前に……?」
【三年前】というワードに引っ掛かりを覚えたリリーは、思わず声を詰まらせた。
三年前といえば、リリーがオリビアの父である隻眼の衛兵と出会った年だ。
偶然に違いないが、リリーは【三年前】と聞くとどうしても、当時のことを思い出さずにはいられない。
そういえば以前、リアムの口からも三年前という言葉を聞いたことがある。
あれは――そうだ。リリーが初めてリアムの部屋を訪れたときのことだ。
あのときはローガンに遮られてしまったが、リアムはリリーに何を話そうとしていたのだろう。
「リリー……。俺は、本当はきみに話さなければいけないことが──」
けれど、黙り込んだリリーにリアムが意を決して何かを言おうとしたとき、
「お話中のところ、大変申し訳ありません……! リアム様に至急お知らせしたいことがあると、たった今、騎士団の伝令兵の方がいらっしゃいました」
また突然、ローガンがリアムの言葉を遮った。
ふたりが同時に振り向けば、めずらしく焦った表情をしているローガンの後ろに、騎士団の軍服をまとった痩身の男が控えていた。
「急ぎの要件とは、どのようなことだ」
「はっ! 先程、国王陛下のもとにグラスゴー王国のエドガー国王から書状が届きまして、その件に関してのことです」
「エドガーだと……?」
リアムの眉間にシワが寄る。
隣りにいたリリーも、エドガーの名前が出たことで、反射的に肩を揺らして身体を強張らせた。