冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「エドガー国王は、ラフバラとグラスゴーの休戦のために、ラフバラが捕らえているウォーリック王国の第一王女、リリー・スペンサー様の身柄をこちらへ渡すようにと要求しているとのことです!」
「な……っ!」
「要求をのめば、ウォーリックへの干渉も止め、今すぐ手を引くとのことで……。しかし要求をのまない場合は全面戦争となることを覚悟するようにと、書状には記してあったそうです」
早口で伝えられた伝令兵からの報告に、リアムだけでなく彼の隣に立つリリーも思わず息をのんだ。
「ど、どうして……?」
何故エドガーが、今更そのような要求をしてくるのかわからない。
そもそもリリーは死んだことになっており、リリーがリアムのもとにいることも、騎士団の一部の人間しか知らされていないはずだった。
「何故エドガーは、リリーが生きていることを知っているのだ」
低く唸るような声を出したリアムに、伝令兵は焦った様子で首を横に振る。
「そ、それはわかりません! けれど国王陛下は、対応のためにリアム様に至急王都に戻られるようにと仰っておりました」
「……チッ」
いまいましげに舌を打ったリアムの瞳からは、今の今まで見せていた穏やかさは消えていた。
対してリリーの胸には大きな不安と、不穏な思いが押し寄せる。
心臓はドッドッドッと波打つように高鳴っていて、背中を嫌な汗が伝い落ちた。
「わかった、これからすぐに戻る。お前は外にいる連中に、ここの警備をより厳しくするようにと伝えておけ」
「はっ!」
リアムの命を受けた伝令兵は一度だけ頭を下げると、一足先に邸を後にした。
リリーは伝令兵の姿を見送ってから眉根を寄せて、難しい顔をしているリアムを見上げて震える息と共に口を開く。