冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「リアム、今の話って……っ」

「……大丈夫だ。リリーはこれまでと変わらず、オリビアたちとここにいろ」

「でも……っ!」


 ローガンが持ってきた騎士団の黒いコートを羽織ったリアムは、ゆっくりとリリーを振り返った。

 その目はリリーが言わんとしていることを察した上で、口にする必要はないと言っているようだったが、リリーはつい叫ばずにはいられなかった。


「エドガーは、私の身柄を差し出すように言っているのよね? だったら私もこれからあなたと一緒に王都へ向かうわ!」


 エドガーが誰からリリーが生きていることと、ラフバラにいることを知らされたのかはわからない。

 けれどエドガーを納得させるためには、リリーという存在が必要不可欠には違いなかった。


「あの男は、自分の思い通りにいかないところがあれば癇癪を起こして武力行使をするような人よ。だから私が行かなければ、ウォーリックだけでなく、ラフバラとグラスゴーまで争いを避けられなくなってしまう!」


 これは単なる噂に過ぎないが、エドガーの父であるグラスゴーの前国王が急死した裏には、エドガーの暗躍があったということも囁かれていた。


「エドガーは、目的のためならば手段を選ばない男よ。それに、あなたが私をここに匿っていたことをラフバラの国王陛下に知られたのならば、その申開きもしなければいけないだろうし──」


 と、リリーがそこまで言いかけたところで不意に、リアムの左手の人差し指が、リリーの唇に触れた。

 咄嗟に口をつぐんだリリーは、一瞬だけその指先に視線を落としてから再びリアムへと目を向ける。

 するとリアムは神秘的な灰色の瞳をわずかに細めて、落ち着き払った声を出した。


「国王陛下には、予めリリーがこの邸にいることは伝えていたから問題はない」

「そ、そうだったの……? でも、それでも私も一緒に行くべきだわ! エドガーは私を欲しているのだから、私が行かなければあの人は納得しな──っ!?」


 と、今度はリアムの唇がリリーの唇を塞いだ。

 突然のことに目を丸くしたリリーは続く言葉を飲み込んで、息をするのも忘れてしまう。

 
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