冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「あの男がきみを欲しているなどという戯れ言を、俺が許すとでも思うのか?」
「んん……っ!!」
唸るように言ったリアムはリリーの顎を掴むと、今度は噛み付くように性急なキスをした。
何度も角度を変えてせがまれるキスに、段々とリリーの思考も奪われる。
「は、ぁ……っ。リア、ム……」
「リリーを渡すように要求してきていることさえ、俺は腸が煮えくり返るような思いだ」
「で、でも……」
「何度も言わせるな。俺はきみを誰にも渡す気はない。何より、きみがいなくなったらオリビアはどうなる。ふたりは俺が命を賭して、守り抜くと言っただろう?」
リリーの濡れた唇を親指の腹で撫でながら、リアムは灰色の瞳をそっと細めて微笑んだ。
余裕を浮かべたその笑みに、リリーの胸の不安が僅かに拭われた気がする。
「そもそも、リリーが生きていることを知らせた人間の正体にも、大方の予想がついているから案ずるな」
「え……?」
言いながらリアムは、リリーの髪を優しく撫でた。
「だから、とにかく今は、ここで俺の帰りを待て。いつも通り、今晩には戻れるようにする。オリビアのことを、頼んだぞ」
そうしてリアムはそれだけを言い残して、颯爽と邸をあとにした。
リアムの情熱あふれる言葉とキスに、リリーの胸には消えない明かりが優しく灯る。
(リアム……)
けれどリリーの不安が完全に消えたわけではなかった。
エドガーという名前が、どうしてもリリーを不安にさせるのだ。
そしてそのリリーの想いに呼応するように、庭の木々は風に吹かれてざわざわとざわめいていた。
✽ ✽ ✽
「……まだ起きていたのか」
その晩、リアムが邸に帰ってきたのは日付が変わって、三十分が過ぎた頃だった。
騎士団の軍服を脱いだリアムの部屋へやってきたリリーは、再びリアムと対峙した。
任務が終わってすぐに、馬を飛ばしてこの邸に帰ってきたのだろう。
リアムは決して顔には出さないが、まとう空気にいつもよりも疲れを滲ませていた。