冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「オリビアは……流石にこの時間だし、眠っているな」
「ええ……。今日は、ソフィアと一緒に眠っているわ。あなたが帰ってきたら、私もあなたともう一度ゆっくりと話したいと思っていたから」
そう言うとリリーは薄手のナイトドレスに羽織ったショールの前を握りしめ、意を決してリアムのそばまで歩を進めた。
「それで……国王陛下は、どのようなご判断をされたの?」
余計な遠回りをせず、直球で尋ねたリリーの声に、リアムはそっと目を細める。
リリーには、嘘をつけない。リリーの強さを目の当たりにしたリアムは、
「きみには、くだらない誤魔化しもきかないだろうな」
と、小さく息をついてから、長いまつ毛を静かに伏せた。
「とりあえず明日、グラスゴーのエドガーのもとへ交渉のために、俺ひとりで赴くことになった」
「あなたが、ひとりで? まさか、どうして……」
「それが向こうの要求なんだ。こちらもラフバラの国王陛下が用意した書状を、届ける任を追っている」
「そ、そんなの危険すぎるわ! 相手があのエドガーでは、何をされるかわからないのに!」
思わず声を上げたリリーは、リアムのシャツの袖をギュッと掴んだ。
「噂が確かならば、エドガーは自分の父である前国王を、毒を使って亡きものにしたという、血も涙もない、冷徹な男よ!」
リリーの言葉に、リアムは務めて冷静に「そうだな」と答えて閉じていた瞼を開けた。
「もちろん国境付近には聖騎士団の精鋭たちを控えさせるし、俺がすぐに戻らなければラフバラ国王陛下にも報告するように指示をしてある。それに、たとえエドガーであろうと、仮にもラフバラの第三王子という立場の俺に、そう簡単には手出しをすることはできないだろう」
「でも……っ!」
「もちろん、すべては憶測に過ぎない。けれどこれは、俺にしかできない任務なんだ。だから俺は明日、単身でグラスゴーへと向かう」
それはエドガーが、ラフバラの騎士団の騎士団長であるリアムを伝令のために寄越すように指示していることを意味していた。
きっと、エドガーから送られてきた書状に書かれていたのだろう。
そうでなければこのように危険な選択を、聡明らしい国王陛下が立った数時間のうちに決断するはずもない。