冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「私に愛するオリビアがいるように、戦争に向かう兵士たちにも愛する家族がいるのよ。だから今ここで、彼らの命から目を逸らしてしまったら、私はオリビアに母として、顔向けできなくなってしまうわ」
そこまで言ったリリーは胸の前で拳を握りしめると、花が開いたような笑顔を浮かべた。
「私は、オリビアが誇れる母でいたいの」
オリビアはこれまでリリーに、大きな愛と幸せをくれた。
今のリリーの決断は、将来そんなオリビアの未来を守る大きな一歩になるかもしれないのだ。
「だから明日、どうか私をグラスゴーへ連れて行って」
「……本当に、きみは変わらないな」
「え……?」
「たしかにリリーの決断は、一国の王女としては素晴らしいものだ。だが、だからといってきみが国の犠牲になるなど間違っているとは思わないのか? リリーは交渉のために使われる道具などではなく、リリーが身を案じたものたちと同じ人間で、ひとつの大切な命なんだぞ」
「──っ!」
そう言うとリアムは、リリーの身体を力強く抱きしめた。
彼のまとうムスクの香りが鼻先をかすめて、リリーは思わず息をのむ。
「そしてオリビアの母がきみしかいないように、俺の愛する女性も生涯リリーひとりなんだ。だから簡単に、自分の身を犠牲にしようなどとしてくれるな。残されるものの気持ちを、もう少しよく考えてくれ」
「リア、ム……」
熱のこもったリアムの言葉に、リリーの目には涙が滲んだ。
リリーは幼い頃から自分の命は、戦争好きな父の手によって政治的なことに利用されるに違いないと思ってきた。
だから今、こうして身を案じ、自分が必要だと言われたことでたまらない気持ちになったのだ。
「きみは、オリビアにとってかけがえのない母親だ。オリビアを見ていたらわかる。きみが今日までどれだけあの子に愛情を与えてきたか──。他者を疑う様子を見せないあの子の無邪気な笑顔を見ていたら、ハッキリとそれがわかるんだ」
「う……っ」
リリーの目から、堪えきれなかった涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
オリビアを身ごもり、彼女の母になってもう三年。
自分に向かって目一杯両手を広げ、屈託のない笑顔を浮かべて駆けてくるあの子を、リリーは誰よりも愛しているのだ。