冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「んん……っ、も……っ、や、ぁ」

「リリー……愛している」


 不意に額に、リアムの唇の熱を感じた。

 それにリリーが薄っすらと目を開けた先で見た、リアムの姿は──。

(え……?)

 どこかで見覚えのあるような気がして、リリーの胸の鼓動が大きく弾んだ。

 美しい黒髪と、自分を真っすぐに見下ろす情熱的な瞳。

 白い月を背負い、自身に覆いかぶさる彼の表情(かお)を、リリーは以前もどこかで見たことがあった。


「リリー……。今度こそ、きみを俺のものにしてみせる」


 いよいよ意識が途切れる間際で、遠い記憶の中で聞いた男の言葉が鼓膜を揺らした。

 暖かく、逞しい腕の中──。

 リリーはいつかの夜と同じように、リアムのその言葉を合図に意識のすべてを手放した。



 * * *



「ん……っ、え……。リアム⁉」


 けれど翌朝、リリーがベッドで目を覚ますと、リアムの姿はどこにもなかった。

 シーツの乱れた広いベッドの上。

 代わりに枕元には、いつかのときと同じようにオリーブの木の枝が置かれていた。


「これは──」


 それを見つけたリリーは思わず息をのみ、ある推察を過ぎらせる。

 身体を重ねたあと、いなくなった彼。

 そして昨晩、リリーを抱いたリアムの姿と、あの日の彼の姿が重なったこと――。


「ま、まさか、そんなはずは……っ」


 三年前の彼はリリーの意識が途切れる寸前に『いつか必ず、きみを俺のものにしてみせる』と言っていた。

 そして昨夜リアムはリリーの意識が途切れる間際に、『リリー……。今度こそ、きみを俺のものにしてみせる』と言ったのだ。

 それはまるで、三年前の言葉の続きのようにも思える。

 更に、目覚めたときに置かれていたオリーブの枝が、リリーに確かな答えを告げていた。


(まさか彼が。リアムが、あのときの彼だなんて……っ)


 リリーは今すぐ、リアムのもとへと駆け出したい気持ちに駆られた。

 けれど、リアムはもう邸のどこにもいなかった。

 白い鳥が翼を広げて、空の彼方へ飛んでいく。

 その姿を見つめながら、リリーはリアムの無事を祈ることしかできなかった。

 
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