冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「そもそもラフバラは、ウォーリックの敵ではないわ。ラフバラはあの日、グラスゴーに攻め入られたウォーリックを救うために来てくれたのよ。つまりお父様を救うべく、動いてくれていたということよ!」


 リリーがそこまで言うと、ウォーリック国王はようやく意味を理解したのか顔色を青くして項垂れた。


「お父様がここを出て、ウォーリックの国王に戻ることは難しいかもしれない。でもきっとラフバラは……リアムは、そんなお父様でも決して切り捨てたりはしないわ。だからお父様。私と一緒に、今すぐここを──」


 と、リリーがそう言って父の牢に近寄ったとき、


「おやおや、ネズミが逃げたと聞いて来てみたら、思いもよらないお客様がいらしているじゃないか」

「──っ⁉」


 突然、背後から聞こえた太くねっとりとした声が、リリーたちの鼓膜を揺らした。

 弾かれたようにリリーが振り向けば、そこには何故かエドガーが、厭らしい笑みを浮かべて立っているのが目に入った。


「エ、エドガー……! どうして、ここに──」

「どうして? それはこちらのセリフだが。ああ、お久しぶりです、リリー王女。あなたとお会いするのは、そうだなぁ。もう五年も前の晩餐会以来かな?」


 再びニタリと笑ったエドガーは、まるで舐めるようにリリーの姿を視線で撫でた。

 中肉中背の身体に、きらびやかな装飾品を身に着けたエドガーはお世辞にも美男とは程遠い場所にいる男だ。

 猫のように細い目と、薄ら笑いを浮かべた顔が明かりに照らされ、やけに薄気味悪く感じてしまう。

(ああ、そうだ。私はこの男の、この目が嫌いだったのよ)

 まるで相手を品定めするような目つきをしている。

 人を人とも思っていないような様子に、言いようのない不快感を覚えずにはいられないのだ。


「あなたを初めて見たときから、僕はいつかあなたを自分の妻にしたいと思っていたのですよ。だから、そちらのウォーリック国王陛下から婚姻話を持ちかけられたときには喜びで胸が震えた。ああ、ようやくあなたを我が物にすることができるのだ。朝から晩まで、あなたと愛し合えるのだと思ったら、眠れぬ夜も多かった」


 そう言うとエドガーは、ゾッとするような笑みを浮かべた。

 リリーはなんとか逃げ道を探そうと思い、ついさっき降りてきたばかりの階段がある方へと目を向けたが、エドガーを振り切って逃げるのはどうやっても不可能なことだろう。

 その上、いつの間にかリリーをここへと案内してくれた衛兵の姿も消えていた。

 もしかすると彼が、リリーが父と話している隙に、エドガーをここへと呼んだのかもしれない。

 
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