冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「痛……っ!」

「ほぅ……。僕に反抗なんてしてもいいのかな? そこにいるゴミクズと、ウォーリックがどうなるかは、これからのきみの態度次第だということを、忘れているんじゃないかなぁ?」

「……っ!」


 卑劣なエドガーの言葉に、リリーは思わず目を見張った。

 やはりエドガーは狡猾で、最低最悪に卑怯な男なのだ。


「リリー王女が手に入ったのなら、ここから逃げたラフバラの騎士団長のことなどもうどうでも良い」

「え……?」

「リリー王女。あなたは今日から、僕と閨(ねや)をともにするのだ。リリーさえ僕に従っていれば、そこのゴミクズもウォーリックも、ラフバラとのこともすべて、慈悲をかけてやってもいいだろう」


 けれど、そこまで言ったエドガーが、ゆっくりとリリーに顔を近づけようとした、そのとき――。


「汚い手で、リリーに触れるな!」

「ぎゃ……っ!!」


 低く地を這うような声が辺りに響いたとほぼ同時に、エドガーの身体が後方へと勢い良く吹き飛んだ。


「ぐ……ぅっ。き、貴様ぁ!! 逃げたんじゃなかったのか!! どうしてお前が、ここにいるんだぁ!!」

「リア、ム……?」


 現れたのは、ラフバラの聖騎士団の黒い軍服を身にまとったリアムだった。

 艶のある黒髪に、左目を隠す眼帯。

 スラリとした体躯と、手にはラフバラの王家の紋章が刻まれた聖騎士の(つるぎ)を握っている。


「逃げ出す? ハッ、馬鹿馬鹿しい。俺は本来の目的を果たすために、姿を眩ませていただけだ」

「本来の目的、だと……?」

「ああ、そうだ。そして、その目的はすでに果たされた。貴様が馬鹿のひとつ覚えのように、女たちの身体に溺れているうちにな」


 そう言うとリアムは剣を構えたままで、リリーを背後に守るようにエドガーと対峙した。

 リアムの広い背中を見たリリーの胸には、言いようのない安堵が押し寄せる。

 
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