冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「だ、だからって! 今の僕はグラスゴーの国王だぞ! ラフバラの騎士団長ごときが、この僕に、こんなことをしていいと思ってるのか! おい衛兵! この無礼な男を今すぐ捕らえろ! そしてこの牢に一生閉じ込めて、苦水を飲ませてやれ!」
激昂したエドガーがそう命令しても、衛兵はやはり、その場から一歩も動こうとしなかった。
「お、おい! 貴様、聞いているのか⁉」
「……愚かなやつだ」
「なんだと⁉」
「この王宮内に、貴様の味方などもう誰ひとりとしていないのだ。前国王の代から、実質的に国を統べていたのは先も話した宰相殿だった。何より、貴様のこれまでの愚かな行いを見てきたものは、貴様の失脚を心から望んでいる。貴様はこの国のお荷物で、この国の滅びの元凶であると、誰もが思っている」
リアムの厳しい球団に、さすがのエドガーも顔色を青くして固まった。
つまり、リリーをこの邸に通してくれた門番も、今目の前にいる衛兵も、誰ひとりとしてエドガーに忠誠を誓ったものなどいないのだ。
「お前はもう終わりだ、エドガー」
吐き捨てられた言葉に、エドガーは野良犬のような唸り声を上げた。
「う、ゔゔゔっ。こんな……っ、こんなことで、終わってたまるもんかっ。僕は王様で、偉いんだ……っ。だから僕には、リリー王女のような綺麗な后がいて当たり前なんだっ!」
「きゃ……っ!」
エドガーは何もかもを失い、気が狂ってしまったのだろう。
ぶつぶつとうわ言を言い始めたと思ったら、突然リリーに飛び掛ろうとした。
「……っ!」
リアムは、そんなエドガーに向かって構えていた剣を振り下ろそうと前に出る。
けれど、すぐ後ろにリリーがいることを思い出すと振り下ろそうとした剣を止め、肘をつきたてエドガーの身体のみぞおちに、深く重く、沈めて止めた。
「ぐ、ぅぅっ!」
蛙が潰れたような声を出したエドガーは、リアムの眼前で動きを止めた。
と、次の瞬間、今の今まで微動だにしなかった衛兵が、リアムとリリーに飛び掛かったエドガーを背後から羽交い締めにして取り押さえた。