冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「ぐ、く、クソぉぉぉッ!」

「……っ!」


 エドガーはリアムから引き剥がされる寸前で手を伸ばすと、リアムの左目につけられていた眼帯を掴んだ。

 そのせいでリアムの眼帯は引きちぎれ、衛兵によって後ろに倒されたエドガーに取られてしまう。


「リアム……っ!」


 咄嗟に左目を押さえたリアムを見て、リリーは思わず声を上げた。


「怪我をしたの⁉」

「いや……問題ない。ただ眼帯を取られただけだ。それより、リリー。きみは怪我をしていないか?」


 左目を押さえたままで、リアムはリリーの身体に傷がないかを確認した。

(リアムの方が私よりもよっぽど、危険な目に遭ったはずなのに……っ)

 こんなときでもリアムはリリーの心配をしてくれるのだ。

 ギュッと拳を握り締めたリリーは、涙を払ってリアムの顔を見つめ返した。


「どうして構えていた剣を、振り下ろさなかったの?」

「今、奴をこの剣で切ったら、後ろにいるきみまで、奴の汚い血で汚してしまうと思ったら、振り下ろすことができなかった」


 そう言うとリアムは、リリーを見て困ったような笑みを浮かべる。

 どこまでも優しい彼に、こんなときでもリリーは胸を高鳴らせずにはいられなかった。


「助けにくるのが遅くなってすまなかった。リリーが無事で、本当に良かった」

「え──」


 けれどその直後、リリーは手が離されたリアムの左目を見て、息を呑んだ。


「リ、リアム。その目は……」


 これまで眼帯で隠されていたリアムの左目の瞳は、リリーやオリビアと同じオリーブ色だったのだ。


「や、やっぱりあなたが、あのときの──」


 リリーの脳裏に、あの晩の光景が蘇る。

 オリビアを身籠った夜、自分を抱いた逞しい腕と甘い声。オリーブの枝を置いて消えた、隻眼の衛兵のこと。

 闇の中で見た、自分と同じオリーブ色の瞳……。そして今、目の前にいる彼の、オリーブ色の瞳。


「あなた、だったのね」


 つぶやかれた言葉に、リアムは両瞼をおろして音もなく頷いた。

 リアムは──オッドアイだったのだ。

 右目はこれまでリリーが見てきたグレーの瞳。

 そしてこれまで眼帯で隠されていた左の瞳は、リリーと同じオリーブ色をしていた。

 
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