冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「あなたが、あのときの彼だったなんて……。私、全然気がつかなくて……」
「リアム様、リリー様! お怪我はありませんか⁉」
「……え?」
そのとき、エドガーを捕えた衛兵がリリーたちに声をかけた。
ハッとしてリリーが目を向ければ、衛兵が心配そうにこちらの様子を伺っていた。
いつの間にかエドガーは抵抗できないように手足を縛られ、地下牢の冷たい床に転がっている。
「ロニー、よくやった。お前が俺をすぐに呼びに来てくれたおかげで、リリーを守ることができた」
「ロニー……?」
リアムが衛兵にかけた言葉に驚いたリリーは、再び驚いて目を剥いた。
そうして改めて、甲冑をまとったグラスゴーの衛兵へと目を向ける。
「え……。まさか、ロニーって、本当に……?」
「お久しぶりです、リリー様」
そう言って朗らかに笑う青年の顔に、リリーは確かに覚えがあった。
ロニー。彼は間違いなく、ウォーリックの孤児院にいた、あのロニーだ。
リリーに花の冠をくれて、大きくなったら最強の騎士になるんだと言った、あのロニーに違いなかった。
「ど、どうして……っ? どうしてロニーが、ここにいるの⁉ 寄りにもよって、あなたがグラスゴーの衛兵になっているなんて……」
「ええと、それは話せば長くなるんですけど……。とりあえず俺は、本当はグラスゴーの衛兵ではなく、ラフバラ聖騎士団のスパイとして、今はここにいるんです」
「あ……あなたが、騎士団のスパイに?」
「はい。なので、あなたを地下牢の前で見つけたときには心の底から驚きました。まさか、リリー様とこんなところで会うとは思わなかったから……。もちろん、ちょっと感動もしてしまいましたけど」
そう言うとロニーは、照れくさそうに頬を掻いた。
今、リリーの目の前にいるロニーには、まだ当時の面影はあるものの、声はすっかり声変わりして、背もとうにリリーを越し、別人のようでもあった。
「でも、あなたを守ることができて本当によかった。ついさっきも、エドガーの言葉を聞きながら、昔、リリー様に言われた言葉を思い出していたんですよ」
「私の、言葉を?」
「はい。〝憎しみに心を囚われてはダメ。復讐や報復は、決して誰の心も救わない。ただ、負の連鎖を生むだけ〟……って。その言葉がなければ俺は今頃、心のままにエドガーに切りかかっていたかもしれません。でもいつだって、そんな弱い俺の心を、リリー様のその言葉が引き留めてくれるんです」
そう言ってリリーを見つめるロニーの瞳は、あの頃と変わらず真っすぐで力強かった。
それに気づいたリリーの目には、思わず涙が滲んでしまう。