冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「リリー王女は、なぜ、こんな時間にこの場所に?」


 変わりに男は、そんなことをリリーに尋ねた。

 男の問いにリリーは一瞬、政略結婚のことを話してもよいのか悩んだが、城内に仕える衛兵であれば近いうちに必ず耳にすることだろうと思い至って、ゆっくりと語り始める。


「実は……今日、お父様からグラスゴー王国の第一王子であるエドガーとの結婚を命じられたの」

「え?」

「お父様は、大国・ラフバラに対抗するため、私をグラスゴー王国へと嫁がせて兵力を強化し、いずれはグラスゴーと共にラフバラを攻め落とそうと考えているみたいで」


 改めて言葉にすると卑怯で下劣なやり方だと、リリーは父を非難せずにはいられなかった。

 ラフバラとの和平に応じれば、どれだけの民の命と生活が守られるだろう。

 反対に、グラスゴーと手を組めば、今まで以上に多くの血が流れ、たくさんの人の命が奪われることになるというのに。


「では、ウォーリック国王は、ラフバラとの和平に応じるつもりはないということですか?」

「ええ、そういうことになるわ。でも、私にはそういう父の考えはさっぱりわからないの。だって戦争は奪うばかりで、得るものは何もない。だから私は、戦争が大嫌いよ。孤児院の子供たちから大切な両親を取り上げたのだって、くだらない権力を誇示するために起こされた戦争だわ」


 リリーは膝の上に載せたブランケットを握りしめる手を震わせた。

 その震える手に、男は一瞬視線を落とすと再び真っすぐに顔を上げ、リリーの言葉に耳を傾ける。

 
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