冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「お父様も、グラスゴーの次期国王である王子のエドガーも、戦争が好きなんてどうかしている。だから私は――今回の政略結婚が、戦争を助長するものになることが、悔しくて、悲しくて、たまらない……っ」


 ソフィアにも吐き出せなかった本音が、涙と一緒にこぼれ落ちた。

 よりにもよって国王に仕える衛兵のひとりに弱音を吐くなど、決してあってはならないことだとリリー自身も頭ではわかっている。

 けれど母の愛した温室と、男の放つすべてを包み込むような不思議な空気がリリーの伏せていた想いを解放したのだ。

 実際、男はただ黙ってリリーの話を聞いてくれている。

 否定も肯定もしないが、まるでリリーの苦しみを受け止めるかのように、彼女のそばにいてくれた。


「ごめんなさい、こんなことを貴方に……。今日のことは、どうか明日になったら忘れてください。本当に、ごめんなさい」


 そこまで言うとリリーは瞬きをして涙を払い、胸に手をあてて息を吐く。

 そして今度は精いっぱい、笑ってみせる。

 ソフィアの前でそうしていたように、なんのことでもないという顔をして、前を向いた。


「話を聞いてくださって、どうもありがとう。貴方に話せて、ようやく私もエドガーに嫁ぐ決心がついた気がするわ」


 忌み嫌う相手に嫁ぐ決心など、そう簡単につくはずがない。

 それでも王女の責務を全うしようとするリリーの健気な様子と、清廉な心に触れた男は、一瞬たりともリリーから目を逸らすことができなくなっていた。

 
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