冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「……決心など、本当はついていないのだろう?」

「え?」


 つぶやいて、男は膝の上で握りしめた拳に力を込める。

 望まぬ相手に嫁がなければいけない、一国の王女様。

 決して珍しい話ではないが、自分の結婚が戦争の引き金となることを知っている彼女の心痛が、どれほどのものかは男にも容易に想像することができた。

 今のリリーの言葉と表情(かお)を、忘れることなんかできない。忘れてなどやるものか──。

 今、男の前でなんとか気丈に振る舞おうと足掻くリリーの心は、闇夜に浮かぶ月よりも美しい。

 心に生まれた淡い想いを自覚した瞬間、男はブランケットを必死に握りしめて耐えるリリーの手に、そっと自身の手を重ね合わせた。


「俺も……きみと、同じように思っている」

「え……?」

「俺も、戦争なんてなくなればいいと思ってるってことだ。戦争なんてくだらない、馬鹿げた方法だと軽蔑している」


 突然くだけた男の口調に、リリーは面食らった顔で固まった。


(と、突然、どうしたのかしら。つい先程までは、穏やかで物静かな人だと思っていたのに……)


 今、ハッキリとリリーに進言した男が放つ空気は、凜としていて力強い。

 男は狐につままれたような顔をしておるリリーを見て小さく笑うと、夜空に浮かぶ月をそっと見上げた。

 
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