冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「戦争は、誰の心も救わない。憎しみと悲しみの負の連鎖が続くだけだ」
『復讐や報復は、決して誰の心も救わない。ただ、負の連鎖を生むだけよ』
それは昼間、リリーがロニーを諭した際に口にした言葉と同じだった。
男の言葉に、リリーはハッとして息を呑むと、思わずゴクリと喉を鳴らした。
男の耳に心地の良い声は、心の奥をじんわりと温めるようで、いつまでも聞いていたいと思える魅力があった。
「きみはとても聡明で、高潔な人だ。きみのような清らかな心を持った王女がいることで、救われている民はたくさんいるはずだ。だからきみは、もう謝る必要はない」
まるで、すべてを見透かしたような男の言葉に、リリーの頬には自然と涙が伝った。
「ああ……。その綺麗な涙は、他の男には見せたくないな」
そう言うと男は、親指の腹でリリーの涙を優しく拭う。
男の顔はローブと夜の闇、そして右目に巻かれた包帯のせいで、ハッキリと見ることができない。
それでも、リリーは気がつくと、一瞬たりとも男から目を逸らせなくなっていた。
(どうして……?)
トクン、トクン、と鳴る胸の鼓動の音が速くなり、次第に呼吸の仕方さえ忘れそうになっていく。
「いつか……世界中の子供たちが安心して眠れる夜がくるように、俺も毎日願っている」
男の力強くも優しい言葉に、リリーの目からはポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
こんなふうに、自分と同じ未来を願う異性に会ったのは初めてだったのだ。
男は負傷した自国の衛兵のひとりにすぎないのに──。
リリーの目に隻眼の衛兵は、人を惹き付ける、絶対的な魅力を持った人物に映っていた。