冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 


「……あなたのような優しい心を持つ人と、結ばれたかった」

「え……?」


 リリーの口からこぼれた言葉に、男が一瞬、驚いたように目を見開く。


「の、望まぬ相手にこのを身体を汚されるくらいならっ。私は……っ、私は、女になんて、生まれたくなかった……っ! この身体が戦争の引き金になるというなら、私は国のためにもいないほうがよかったのよ!」


 それは、リリーの心の底から溢れた悲痛な叫びだった。

 エドガーに汚されるなんて、我慢がならない。

 戦争を起こすために利用されるなど、どうしたって納得できるはずもなかったのだ。


「私は……っ。私は、無力で、誰のことも救えないわ……っ」

「……っ!」


 次の瞬間、男は衝動的にリリーの華奢な身体を抱きしめていた。

 膝に置かれていたブランケットが、ふたりの足元へと音もなく滑り落ちる。

 男は僅かな隙間さえ許さないとばかりに、力強く、リリーの身体を抱きしめた。


「そんなことを言うな……! きみは、誰よりも美しく、気高いのに……っ」


 男の祈りにも似た言葉を聞いたリリーは、縋るように男の背中へと手を回すと、男の肩に顔を埋めた。

 そして、必死に声を押し殺して泣いた。

 喘いでしまいそうになるのを堪えて、男の身体にすがりついた。


(どうか、今日だけは許してください、神様──)


 心の中で、何度も何度も祈り続ける。

 そうしてリリーは、想像していたよりも遥かに逞しい身体つきをしていた男に、成されるがままで身を委ねた。

 ふたりはそうすることが必然であったかのように唇を重ねると、闇に紛れて身体を繋いだ。

 
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