冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「なんだか……不思議な夢を見ているみたい」
ふたつの影が重なる頃、夜は一段と濃くなっていた。
美しい花々に囲まれながら、リリーは自身に覆いかぶさる男の顔を静かに見上げたが、月を背負う男の顔は逆光になっていて、やはりほとんどよく見えない。
「ねぇ、これは、夢ではないのよね?」
「ああ。だが、俺も夢を見ているような気持ちだ」
男はまるで壊れ物を扱うように優しく丁寧に、リリーを抱いた。
「今……この世で、きみの体温を知り、甘い声を聞くことが許されるのは俺だけだと思うと、最高に幸せで、たまらない気持ちになる」
「ん……っ、あ……!」
艶のある男の声が、リリーの鼓膜を優しく揺らした。
初めて耳にする自身の甘い声に耐えかねたリリーは、いつの間にかギュッと瞼を力強く閉じていたが、そんな仕草も愛しいと言わんばかりに、男はリリーを愛で続けた。
「白い肌と、心地の良いきみ自身が俺を捕らえて離さない……」
「や……ぁ、ダメ……っ」
その晩、男は何度も何度も初心なリリーの頭の中を真っ白に染め上げ、いつまでも丁寧に、甘く切なく溶かしてくれた。
夜空に浮かぶ月だけが、ふたりの秘密の情事を見下ろしている。
不意に額に男の唇の熱を感じたリリーが薄っすらと瞼を開けば、男の美しい黒髪と、自身と同じオリーブ色をした瞳が目に入った。