冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
(けれど私が彼を信じたいと思うのも、私が世間知らずだからなのかもしれないわ……)
実際はソフィアの言う通り、男の行方もわからぬままだ。
そもそも、リリーが男をどう思っていようが、ふたりが結ばれることは絶対に有り得ないのだ。
実際、リリーは半月後にはエドガーのもとへと嫁がなければならないし、男が見つかったところでリリーにできることは何もなかった。
だから、あれから二カ月が過ぎた今、あの男のこともあの夜の出来事も忘れなければいけないと、リリーは半ば諦めの想いを抱き始めていた。
「それではリリー様。まず、今のご体調について、いくつかご質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……はい、もちろんです。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言うとリリーはベッドに座ったまま、そばに立つ医師に会釈をした。
絶対に相容れない相手との、政略結婚。その上、大きな戦争の引き金となるかもしれないという、最低最悪な条件下での婚姻話。
この二ヶ月、リリーは男を想う傍らで、どうすれば父の謀略を阻止できるか考えてきた。
さらに孤児院の子供たちを思うと、眠れぬ夜も多かった。
そしてその結果として心労がたたったのか、リリーはここのところ体調を崩してしまっていた。
「リリー様はもともとお身体も細いですが、ここ二カ月で更にお痩せになってしまって」
不安げに医師に語るのはソフィアだ。
今日はリリーを心配したソフィアが医師を呼んでおり、これから診察を受けることになっている。