冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「ふむ。お食事を戻してしまうようになったのは、いつ頃からですか?」
「二週間ほど前からです。最近では食べ物の匂いを嗅ぐだけで気持ちが悪くなってしまって……」
そう言って胸を抑えるリリーはソフィアの言葉の通り、もともと華奢だった身体を更にやつれさせていた。
(このままでは、ロニーをはじめとした孤児院の子供たちにも合わせる顔がないわ)
体調不良のせいで自分が足を運べなくとも、定期的な支援物資を届けることだけは兵士を通じて続けているが、それもリリーが嫁いだあとも継続されるという約束はなく、不安は募る一方だった。
「ふむ……。では、もうひとつご質問をさせていただきたいのですが……。最後に月の障りに入られたのは、いつ頃ですか?」
「え……」
そのとき、不意に医師から尋ねられた思いもよらない質問に、リリーは思わず声を詰まらせた。
医師の言う月の障りとは、月に一度ある、女性特有の事情のことだ。
答えに迷っているリリーに反して、そばに控えていたソフィアは悪い予感が的中したという様子で表情を強張らせる。
「そういえば……もう、二ヶ月半以上前です」
「二ヶ月半以上……ですか」
「ええ……。でも、それもすべて体調が思わしくないせいで、月の障りにも影響が出ているのだとばかり思っていて」
言いながら、リリーは思わずドレスの裾をキュッと掴んだ。
ドッドッと心臓は大袈裟に音を立て始め、背中には冷や汗が伝い落ちて指先は震えた。