冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「あ……っ! い、いけません、オリビア様──っ!」

「きゃあ! おうまたん!」

「ヒヒーーンッ!!」


 リリーは気が動転していたあまり、ついオリビアから目を離してしまった。

 するとその隙に、オリビアが馬に向かって駆けだしたのだ。

 突然自分に向かって駆けてきたオリビアに驚いたらしい馬は、高い声で鳴いて前脚を大きく持ち上げた。


「ひゃあ……っ!!」


 馬は蹄を慣らして、バタバタとその場で激しく足踏みをする。


「きゃっきゃぁ!」


 その様子を見て、更に興奮したオリビアは笑顔で馬に駆け寄ろうとした。


(い、いけないっ!)


 一番近くにいたソフィアは腰を吐かしていて動けず、リリーは慌てて駆け寄ろうとしたもののドレスのせいで一歩が遅れた。


「危ない、オリビア……っ!」

「……っ!」


 と、そんなリリーの横を黒い風が駆け抜けた。

 あっとリリーが目を見張ったときには間一髪、馬に近づこうとしたオリビアを、リアムがサッと抱き上げていた。


「大丈夫か?」


 それは一瞬の出来事だった。

 リリーとソフィアは驚いて目を見開き固まって、オリビアも自身を抱き上げたリアムを見上げて驚いている様子だ。


「どう、どう。落ち着け」


 リアムはオリビアを片腕に抱いたまま、慣れた様子で手綱を掴んで馬を宥めた。

 馬は繋がれていた木のそばで首を何度か振ったあと、リアムの命令にゆっくりと落ち着きを取り戻していった。


「わぁ! おうまさん、いいこ、いいこ」


 オリビアはその一部始終を、大きな瞳を爛々と輝かせて見ていた。

 そんなオリビアを、リアムは何故か愛おしげに見つめている。

 そして馬から離れたあとでオリビアを地面におろすと、オリビアの視線に自身の視線を合わせるように、とても優雅に跪いた。

 
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