冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「馬は、とても利口な生き物だ。けれど、不用意に近づいてはいけない」
「ふよーい?」
「ああ。ほら、お母様の顔を見てごらん。今、どんな顔をしている? とても、心配そうにきみを見ているだろう。お母様を泣かせるようなことは、してはいけない」
「おかーたま……」
リアムの話を、まだ小さなオリビアが正しく理解することはできないだろう。
「オリビア……っ!」
けれど目に涙をにじませ、慌てて自分に向かって駆けてきたリリーを見たオリビアは、何かを察した様子で突然うるうると瞳を潤ませた。
「お、おかーたまぁ! うわぁーーーん!」
「オリビアっ。ダメよ、ひとりで馬に近寄っては……っ」
オリビアの小さな身体をきつく抱きしめたリリーは、その温もりを確かめるように涙を零す娘の背中を何度も撫でた。
「おかーたまっ、おかーたまっ」
「やはり……この子はリリー、きみの娘なんだな」
と、そばでふたりを見守っていたリアムが改めてリリーに尋ねる。
目に浮かんだ涙を拭ったリリーは険しい表情で顔を上げると、リアムの質問に躊躇いながらもゆっくりと頷いた。
「そうよ……。この子は、私の娘よ。助けてくださって、ありがとう」
リリーの答えに、リアムは内心、胸を大きく震わせた。
けれどリアムは精いっぱい表情には出さずに、一度だけ短く息を吐いてから質問を続ける。
「見る限りだと、年頃は二歳くらいか?」
「……ええ。今年三歳になるわ。オリビアは約三年前、ウォーリックの王宮に仕えていた衛兵との間にできた子供なの。私はこの子を産むために、自分は不治の病で命を落としたということにして、当時、エドガーとの間に結ばれていた婚姻を破棄したのよ」
リリーの告白を聞いたリアムは、太ももの横で握りしめていた拳を更にきつく握った。
それは怒りとは違う理由の想いのためなのだが、今、心に余裕のないリリーには、リアムの真意に気づく術がない。