冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「エドガーのもとへ行くなど、絶対に許さない。俺はリリーが他の男の名を口にするだけで、今、気が狂いそうなほど苛立っている」
そう言ったリアムは本当に苛立っているのか、まとう空気すら冷たいものに変わっていた。
しかし、吐き捨てられたのは背筋が凍るような言葉のはずなのに、何故かリアムの瞳にはリリーへの情愛のようなものが浮かんでいる。
(わ、私が他の男の名を口にするだけでって、それはどういうことなの?)
リアムの真意を掴めないリリーは、余計に困惑するばかりだった。
今、どうしてかリアムは酷く怒っている。
そして今のリアムの言葉を聞く限りでは、原因はリリーがエドガーのもとへ行くと言ったことに違いなかった。
「で、でも。私が行かなければ、ウォーリック王国はグラスゴー王国に攻め落とされてしまうわ」
「ハッ、そんなことは絶対にさせない。何故なら今そのために、俺がここにいるんだからな」
「え……?」
もう、何がなんだか、リリーにはリアムの言っていることの意味を理解することはできなかった。
それでもハッキリとわかるのは、リアムがリリーをこのまま逃す気はないということだ。
リリーを見つめるリアムの目は、まるで獲物を捉える前の獣のようで、リリーは思わず自身の肌がゾクリと粟立つのを感じて息を呑んだ。
「おかーたま……?」
そんなリリーの動揺を察したらしいオリビアが、彼女の腕の中からゆっくりと顔を上げて弱々しい声を出す。
リリーはそれに慌てて我に返ると、オリビアの黒髪を撫でながら「大丈夫よ」と安心させるようにつぶやいた。