冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「これは本当に……どういうことなのかしら」


 その後も三人は、ローガンを初めとした三人の使用人にそれはそれは丁重にもてなされ、何事もないまま夜を迎えてしまった。

 お腹いっぱいご飯を食べ、母であるリリーと温かい湯に浸かったオリビアは長旅に疲れていたのかベッドに入るなり眠ってしまったところだ。


「私はてっきり、もっと粗雑な扱いを受けるものだと思っていたのだけれど……。だって私は仮にもウォーリックの王女で、ウォーリックはラフバラとの和平に応じず、もう何年も敵対関係を続けているのよ?」


 だから、敵国の王女が……ましてや幽霊姫が、こんなに丁重な扱いを受けられるはずがない。 

 リリーの疑問は最もで、ソフィアも複雑な面持ちのまま、事態を飲み込めないといった様子だった。


「ラフバラ聖騎士団長の騎士団長……リアムは、一体何を考えているのかしら」


 眉根を寄せてつぶやかれたリリーの言葉に、ソフィアは「私にもさっぱりわかりません」と、声に困惑を滲ませた。


(冷酷無比な騎士団長と噂される男だもの……。私たちを攫って、国同士の交渉のために使うことは間違いないとは思うのだけれど)


 窓の外に浮かぶ白い月を見上げながら、リリーは小さく息をついた。

 いくら丁重に扱われようとも、自分が政治的要因に利用されるだろうという覚悟は忘れない。


「失礼いたします、ローガンでございます」


 と、そのとき、不意に扉の向こうから声をかけられた。


「リリー様。先ほどリアム様がお戻りになられまして、リリー様にオリビア様を連れて、リアム様のお部屋まで来られるようにとの言伝を承りました」

「リアムが……?」


 やってきたのは、使用人頭のローガンだった。

 ローガンは物腰の柔らかな白髪の老紳士だ。今日一日、常にリリーたちを気遣ってくれ、オリビアにも優しく、決して悪い人間には見えなかった。

 けれど彼の言う『リアムが戻ってきた』ということの意味がわからず、リリーは眉根を深く寄せてしまう。

 
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