冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「わ、私の願いを叶えるって、それならお兄様を助けてくださるとでもいうの?」

「ああ、そうだな。だが……リリーの兄だとはわかっていても、リリーが他の男のことを想っていると思うと、たまらなく妬けてしまう」

「それは、どういう……」


 わからない。リアムがどうしてこんなことを言うのか、リリーにはさっぱりわからなかった。

 まるで、リアムが自分を愛しているとでもいうような……。切なく甘い言葉ばかりを耳元で囁かれたら、余計に混乱してしまう。


(だって、彼は……リアムは私を利用するために、甘い台詞を口にしているだけでしょう?)


 頭ではそう思うのに、鼓膜を揺らすリアムの胸の音はリリーの考えのほうが間違っているとでも言いたげだ。


「きみが兄を想っているだけでも妬けてしまうのだから、リリーの口からエドガーの名を聞いたら理性が失せるのは当然だな」


 対してリアムはリリーを抱きしめる腕を緩めると、改めて真っすぐにリリーを見下ろした。


「リリーは他の誰にも渡さない。リリーとオリビアだけは……この命に変えても、絶対に守り抜くと、今、誓おう」


 揺るぎない意志を宿した灰色の瞳と、力強いリアムの言葉に、リリーは力なく立ち竦んだままで彼の凄艶(せいえん)(さま)に見惚れた。


「きみをあの場所で見つけ、本当にきみが生きていたのだと知ったときは、胸が震えた。俺は……もうずっと、きみが死んだものだと思っていたから」


 思わずゴクリと、リリーの喉が鳴る。

 もう、リリーはリアムに尋ねずにはいられなかった。


「私とあなたは、以前、どこかで会ったことがあるの? ごめんなさい……。私は、まるであなたのことを覚えていないのだけれど、あなたは私を花園で見つけたときにも、私がすぐにウォーリック王国の第一王女、リリー・スペンサーであると気がついたようだったから……」


 リリーは一度、死んだはずの人間。

 それなのにリアムがすぐにリリーがウォーリックの王女であるリリー・スペンサーだと気がついたのは、やはりふたりが過去にどこかで会ったことがあるからなのだ。

 
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