冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「やはり……俺のことは、覚えてはいないのか」
「え……?」
「それとも、気がついていないだけか……」
リリーの質問を聞いたリアムは、そう言うと切なげに眉根を寄せた。
どうして今、彼がそんな顔をするのか。リアムを覚えていないリリーには、さっぱりわからない。
「いや……。そうか、そうだよな。確かにあのときは、俺も……」
歯切れの悪いリアムを、リリーはただ静かに見つめ続けた。
今、リアムは何かを迷っているように見える。
彼が何に迷っているのかは、当然リリーに察せるはずもなく、困惑は募る一方だった。
「俺とリリーが出会ったのは、約三年前──」
と、そのとき。コンコン、という扉をノックする音が、部屋の中に響いた。
弾かれたように顔を上げたふたりは、音のした方へとほぼ同時に目を向ける。
「失礼いたします、リアム様。ローガンでございます」
「……ローガンか。どうした」
「申し訳ありません。オリビア様がお目覚めになられ、リリー様のことを探して泣いておられるとソフィア様から頼まれまして、ご相談に参りました」
部屋を訪ねてきたのは使用人頭のローガンだった。
ローガンの言葉に、ハッと我に返ったリリーは、リアムから慌てて一歩距離を取った。
「ご、ごめんなさい、私……」
突然離れたリリーに、リアムは一瞬目を見開いたあと切なげに眉を下げたが、すぐに顔を上げると小さく息を吐き、改めてローガンへと返事をした。