冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「もしも私が本当にリアムの妻になれば、オリビアに真っ当な道を歩かせてあげられることができるんじゃないかしら」

「リリー様……」

「私がウォーリックの幽霊姫ではなく、ここで彼の妻になれば、オリビアは彼の娘ということなる。私のような日陰の身ではなく、オリビアは陽のあたる場所で生きていけるかもしれないのよ。だからウォーリックに戻って元の生活を送るよりも、ここで生きていくほうが……オリビアにとっては幸せなんじゃないかしら」


 リリーはそう言うと、再び長いまつ毛を伏せた。

 娘のために、どうすることが一番いいのか。

 兄のアイザックや、いなくなった父のこと。

 すべてを引っくるめて考えたときに、たった今ソフィアに告げたことが最善なのではないかと、リリーはこの三日、考え続けていた。


「私は、無力よ……。恩のあるお兄様の力にもなれないし、いなくなった父を探しに行くこともできない。それでも、あの子には幸せになってほしいと思うの。オリビアには、陽のあたる場所で生きていってほしいのよ」


 愛しいオリビア。オリビアのためなら自分の女としての幸せどころか、命さえも惜しくはないと、リリーは心の底から思うのだ。


「ねぇ、ソフィア。今の私の考えは、間違っているかしら」

「……いいえ。リリー様の考えるところは、私もよくわかります。私もリリー様と同じく、オリビア様には陽のあたる場所を歩いてほしいと願う人間のひとりですから」

「だったら、やっぱり……」

「ええ。ですが私は、リリー様にも幸せになってほしいのです」

「え……」

「それに、やはり私はまだあの男を……リアム様を、完全に信用することができません。なぜならあの方は、冷酷無比といわれる騎士団長に違いないのです。オリビア様を想うリリー様の母心を利用して、結局はリリー様を意のままにし、政治的に利用しようとしているのではと、どうしても勘ぐってしまうのです」


 ソフィアの言葉を聞いたリリーは、思わず足元へと視線を落とした。

 ソフィアの言うことは最もだ。やはり、たった三日で、大きく気持ちが変わることなどあり得ない。

 実際、リリーもリアムを完全に信用しているのかと問われたら、答えはノーに違いなかった。

 
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