冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「リアムが……?」
「リリー! オリビアがいなくなったというのは本当か⁉」
と、程なくして現れたのは騎士団の黒い軍服を纏ったリアムだった。
リアムは本当にたった今帰ってきたばかりなのかコートすら脱いでいない状態で、前髪もわずかに乱れてしまっている。
「オリビアがいなくなったのはいつだ! まさか、もう随分時間が経っているのか⁉」
呼吸も乱れている。
帰宅して使用人からオリビアがいなくなったことを聞き、ここまで走ってきたということがよくわかって、リリーは思わず胸の前で握りしめた手に力を込めた。
「ま、まだいなくなってからは、少ししか経っていないわ。でも……蝶を追いかけていたから、もしかしたら、つられて外に出てしまったのではないかと思ったのだけれど、外には騎士団の隊員たちがいるから、それはないだろうという話を今、聞いたところで……」
どうしてか今、リリーはリアムの焦った様子を見たら、胸の奥が苦しくなった。
たった今、リアムは自分を利用するために邸に閉じ込めているのだとリリーは考えたばかりなのに、またくだらない期待を抱きそうになっている自分の浅はかさが嫌になる。
「チッ! おい、ローガン。今日の見回りの責任者は、ダスターだったな?」
けれどリリーの複雑な胸のうちとは裏腹に、眉根を寄せて小さく舌を打ったリアムは、ローガンを呼びつけた。
「は、はいっ。ダスター様で間違いありません!」
「それなら、今すぐ外にいるダスターに伝えろ。これから邸周辺を捜索し、オリビアが見つからなければ、お前ら全員の首が飛ぶことと思えと忠告を添えてな!」
リアムに凄まれたローガンは、慌てて頭を下げるとすぐにその場を立ち去った。
そんなリアムをリリーは半ば呆然としながら見つめていたが、灰色の瞳が再度自分へ向けられたことに気づくと、ハッとして大きな目を瞬かせた。
「ご、ごめんなさい、私……」
「……大丈夫だ。オリビアは必ず見つける。約束しよう」
「で、ですが、どうやって──?」
思わず口を挟んだのはソフィアだ。
リアムは自分とリリーの間に割って入ってきたソフィアには温度のない目を向けると、低く唸るような声で彼女の質問に答えた。