冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「本当に、ありがとう……。あなたには、どれだけ感謝の気持ちを伝えても足りないわ」
リリーがそう言って微笑めば、ダスターは照れくさそうに頬をかいて、はにかむ。
「いえいえ、とにかく無事に見つかって良かったです。危うく俺のクビが飛ぶところでしたから」
冗談交じりに言ったダスターは白い歯が眩しい、爽やかな笑顔が印象的な男だった。
屈強な身体つきと強靭な肉体はいかにも騎士団らしく、リアムが信頼を寄せているだけの風格を持っている。
「そういえば……あなた、初めてここへ私たちを連れてきてくださったときにいた、騎士団の隊員さんよね?」
大人たちを心配させたオリビアは、先程ソフィアが部屋へと連れていって寝かせているところだ。
テラスには今、ダスターとリリーしかおらず、改めて彼と対峙したリリーはここへ来た日のことを思い出して、彼に尋ねた。
「へへっ、バレちゃいましたか。って、別にバレちゃいけないようなことでもないんですが」
また頬をかいたダスターは、リリーに「あ、俺のことはダスターと気軽に呼び捨ててくださいね」と、言い添える。
「あのときはご挨拶もろくにせず、すぐに立ち去ってしまって申し訳ありませんでした。今更のいいわけなんですが、あの日はまだ任務も残っていましたし、何より極力、リリー様とは話すな、触れるな、近寄るなって、リアム様からそれはもう厳しく言われていたもんで」
「……リアムが?」
ダスターの口から飛び出したリアムの名前に、リリーは訝しげに眉根を寄せた。
リアムはオリビアが見つかった報告を受けてすぐ、急ぎの用事があるとかでラフバラの王都へ行ってしまって、今は邸にはいないのだ。
(ついさっき帰ってきたばかりなのにまた王都へ行くなんて、一体なんのために邸に帰ってきたのかわからないわよね……)
リリーは首をひねったが、リアムに理由を聞く間もなかったので考えることを諦めた。
「今だって、こうしてリリー様とふたりで話し込んでるところをリアム様に見られたら、罰として腕立て五百回とか言われそうで、内心ヒヤヒヤしてますよ」
言葉の割に、ダスターの顔に焦りの色はない。
むしろ、ダスターはいたずらっ子のような笑みを浮かべて人差し指を唇に添えている。