再び訪れる幸せは、あなたの温もりの中にある【優秀作品】
花束を……
 プロポーズ用の花束を売ってから、2週間後、同じ男性が500円の小さな花束を買いに来た。

「プロポーズ、うまくいきました!
 彼女、花をすごく喜んでたんですが、もう
 萎れてきてしまったので、またプレゼント
 しようと思って」

嬉しそうに話す男性。

「それは、おめでとうございます」

お祝いを述べながら、こちらまで嬉しくなる。


この人は、これから花が枯れるたびに、こうして彼女に花をプレゼントしてあげるのかな。

そんな風に思われるのって、素敵よね。


 男性が意気揚々と花束を抱えて帰っていくのを見送り、店内に視線を戻すと、店長と目が合った。

由香(ゆか)ちゃんも、ああやって花束もらったら、
 嬉しい?」

「そりゃあ、嬉しいですよ。
 誰もくれませんけどね」

結婚するつもりがない私は、一生、誰とも付き合うつもりはない。だから、私が花束をもらうことは、一生ない。

「それより、店長こそ、いい加減、花束を
 あげる相手、探したらどうです?
 もう3年も彼女いないんでしょ?」

 大学卒業後、生花卸売市場に勤めていた店長は、28歳の時に脱サラして花屋を始めた。その時付き合ってた彼女には、花屋をやるって言った途端、振られたらしい。これから結婚って言う時にする決断じゃないって。

なんでかな。
店長、いい人なのに。

サラリーマンの店長は良くて、花屋の店長はダメなんて、それ、店長じゃなくて、肩書きや収入が好きだったってこと?

「そうだな。
 ただ、問題は、もらってくれるかどうか
 だけど……」

と店長は苦笑いをこぼす。

えっ……?

そっか……
いつの間にか、店長にもそんな人がいたんだ。


なんだかモヤモヤしたものが胸の中に広がり、落ち着かない。


店長にそういう人ができるのは、当たり前じゃない。

こんなに、優しくて、決断力も行動力もあって、なおかつ、ルックスもいいんだから。


うちに花を買いに来る女性の中には、明らかに店長目当ての人が何人もいる。

やっぱり、相手はお客さんなのかな。


 その日は、閉店まで、胸の中のモヤモヤが消えなくて、苦しい思いを抱えたまま、家路に就いた。
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