再び訪れる幸せは、あなたの温もりの中にある【優秀作品】
すずらんのブーケ
 それから、数日が経ち、今日、5月28日は、私の27歳の誕生日。だからといって、特に何があるわけでもない。でも、そう、帰りにケーキくらいは、買って帰ろうかな。そんなことを思いながら、私はいつも通り、仕事をする。

 売り場に並べるミニブーケやアレンジを作り、鉢植えの世話をする。来客が多い時も少ない時も、仕事はいくらでもある。

 すると、夕方、突然、店長がブーケを作り始めた。今日、そんな注文があるなんて、聞いてない。

「店長、それ、なんですか?」

「ん? これは、俺が個人的に受けた注文。
 俺がやるから、気にしなくていいぞ」

そう言われても、鮮やかな手捌(てさば)きで作る店長のブーケは、とても綺麗で、ついついその作業も見入ってしまう。

 5月の花とも言われる、可憐なすずらんだけを使ったブーケ。結婚式用かな? すずらんの花言葉には、「純粋」「純潔」などがあり、ウェディングブーケによく使われる花だ。


 19時の閉店時刻になっても、そのブーケを受け取りに来る客はいなかった。

店長が届けるのかな?

 私が、店内の掃除を終えると、店長に呼ばれた。

「由香ちゃん、お誕生日おめでとう」

そう言って差し出されたのは、すずらんのブーケ。

「えっ、これ、私に!?」

こんな綺麗なブーケ、もらっていいの?

「由香ちゃん、
 俺と一生、一緒にいてくれないかな」

「えっと……」

それって……

「由香ちゃんの生い立ちも事情も、全部知った
 上で、俺は、由香ちゃんと一緒になりたいと
 思ってる。俺は小さな花屋でしかないけど、
 それでも、由香ちゃんと子供たちくらいは、
 養えるように頑張るから。だから、俺と、
 結婚を前提に付き合って欲しい」

どうしよう。

胸の奥が、キュンと締め付けられて、苦しいよ。

断らなきゃいけないのに。

私は、子供なんて産めないのに。

「あの…… 私……」

言葉が出てこない。

なんて言えばいいの?

店長のことは、嫌いじゃない。

大好きだけど、大好きだからこそ、店長には、幸せになって欲しい。

ちゃんと子供を産んで、ちゃんと子供を育てられる人を選ばないと……

「由香ちゃんが虐待を受けて、児童養護施設で
 育ったことは知ってる。だから、子育てに
 不安を持ってることも、ここへ来てもらう
 ようになってすぐに聞いた。それでも、俺は
 由香ちゃんと一緒に人生を送りたいと思う」

店長は、ひとつひとつの言葉を、ゆっくり、丁寧に、慎重に選ぶように語りかける。

「由香ちゃんなら大丈夫だと思うけど、
 それでも、もし、由香ちゃんが、子育てで
 煮詰まるようなことがあったら、俺が
 育てるよ。だから、将来、俺たちに子供が
 できても、育児放棄するようなことは、
 絶対にない。由香ちゃんみたいな苦しい
 思いは、絶対にさせないって約束するよ。
 だから、由香ちゃん、
 安心して俺と家族になろう?」

ほんとに?

ほんとに、私なんかが、幸せになっていいの?
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