*SS集*お稲荷様のお呼びです!
ふっと外から冷たい風が入ってきたかと思えば耳元で切りそろえられた髪を微かに揺らし、冷え込んだ空気が首に纏って思わず肩を竦めた。
着物を着込んでも尚、ここまで寒いとなれば今日はもしかしたら雪が降るかもしれない。
そんな事を思いながら暖を取ろうと窓際からゆっくりと離れ、いつの間にか濡れていた頬を袖で拭う。
春の暖かい日差しも、夏に鳴く蝉の声も、秋の紅く燃える紅葉の色も、冬の初雪も……私は誰とも一緒になって眺めたことがない。
誰かと一緒にその時の情景を確かめて、思い出を紡ぎたいというのに、誰も私を迎えに来てはくれない。
幼い頃からずっとここで一人で、一人の時間を耐えてきた。
いつか必ず誰かが優しく手をさし伸ばしてくれると信じて、私はずっとここで待っているというのに。
「もう一人ぼっちは嫌じゃ……」
誰にも聞こえない救いの声が虚しくも広い部屋に響いていく。
その声が届いたのか……儚げに雪が振り落ちてきたのを火が灯っているというのに温かさを感じられない囲炉裏の横に座りながら眺めた。
次の冬はこんな思いをせずに迎えることができるのだろうか。