*SS集*お稲荷様のお呼びです!
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ぼうと揺れる炎をただ黙って見つめていると、優しく声がかかりゆっくりと振り返る。
「伽耶ちゃん!今日大根いいの買えたから、おでんにしよう!」
笑顔を振りまきながら高らかと掲げた大根を見せた、巫女の血を受け継ぐ千代にわしは一つ頷いた。
その後ろから覗く幼き妖狐の伊鞠も、嬉しそうな顔してわしを見てきた。
「じゃあ、とびきり美味い出汁を取らねばな」
暖気で溢れるこの家でわしは美味いものを振る舞うべく、千代と共に台所へと向かう。
誰かとこうして並んで歩くのも昔のわしには想像も付かなかったが、今となってはこれが当たり前でもう寒さを感じることはない。
冬の寒さに凍えるわしは、もうどこにもいない。
寂しさを知るわしに、この子らには同じ思いなどさせない。
暖かい手を差し伸ばしてくれたこの子らを、手放したりは絶対にしない。