*SS集*お稲荷様のお呼びです!


しとしとと止まない雨は庭に咲く紫陽花達に色を与えては、地面に吸収されるかのように滴り落ちていく。

その様子を和室の片隅から見つめて、一つため息を零した。

じめじめとした湿気が肌にまとわりつく中、私の鬱陶しい気持ちを無視してモフモフの尻尾が背中に当たる。

当の本人はその事に気がついているのかどうなのかはハッキリしないけれど、聞こえてくる呼吸音は規則正しく深い。

きっと私の事は気にせずうたた寝でもしているのだろう。

背中合わせに座っている私達にはお互いの顔はまったく見えないが、気配で何となく分かった。

まったく……私がサボらないようにと見張り役を名乗りあげたというのにも関わらず、この神様は自分の睡眠を優先したようだ。

座卓に向かって巫女の歴史の勉強をしてはいるものの、難しい言葉ばかりでちっとも頭の中には入ってこない。

集中力が切れた私は手首に巻かれたその朱色の糸をバレないように、くっと引いてみた。

うたた寝をしている神様の右腕が微かに動くが、それ以外は反応を見せない。

そう思っていたのに、いきなり背中にずしりと重みを感じて思わず両手を座卓に付いた。


「ちょっ……」


わざとやってるならその獣耳でも引っ張ってやろうかと思ったけれど、規則正しい呼吸は今も続いていた。





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