あの日の初恋を君に〜六人の主人公〜
帆高がそう言って嬉しそうにするのを、未来はジッと見ていた。その横顔を見るだけでも頬が赤くなってしまいそうになる。

「ねえ、未来ちゃん」

未来が帆高を見ていると、未来の服を英美里が引っ張る。未来が英美里を見ると、英美里は「今気付いたんだけど……」と言って遠くを指指した。英美里の指差す先にはこの街で暮らしている人々の姿がある。しかし、その顔はみんな無理やり笑っているように見えた。

「芸術って楽しむためにあるんだよね?どうしてみんなあんなに暗い顔なんだろ?」

「そう言われてみれば確かに……」

英美里の言葉に未来と帆高はどうしてだろうと話す。何があったんだろう。未来が街の人に訊ねようとした刹那、「それは全部、エルルカのせいです」と暗い声が響いた。

「誰じゃ、お前?」

先に後ろを振り返った瀧が警戒した目を向ける。未来も振り向くと、フェミニンな赤いワンピースを着た若い女性が立っていた。栗色の髪を束ねている。
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