あの日の初恋を君に〜六人の主人公〜

クラスの男子たちに言われ、未来は「大丈夫！学校の近くにコンビニあるし、そこで何か買えばいいじゃん！」とかばんの中から財布を取り出した。去年の誕生日に母が買ってくれたミントグリーンの財布だ。

「ダッシュで行ってくる！」

友達にそう言い、未来は教室を飛び出す。二年生の教室から下駄箱まではかなり距離がある。未来は息を切らせながらも足を止めずに走った。

今まで生きていて、何度こうして人から笑われているかわからない。持って来なければならないものを忘れる、遅刻をしてしまう、授業中に珍解答を言うーーー。そのたびに未来はみんなと同じように笑っていた。その方が気が楽でずっといいからだ。

「よし！あとは階段を降りるだけ！！」

未来は、階段をまるで十二時の鐘が鳴ってしまったシンデレラのように駆け下りていた。しかし、急いでいる時ほどドジは踏んでしまうものだ。

走っている未来の足が階段を踏み外した。その刹那、未来の体はぐらりと傾き、階段の下に向かって落ちていく。