人魚の愛
この男に特別な感情を抱き始めたのはいつだったろうか。

政略結婚とはいえ妻ができたという話を聞いたとき胸が張り裂けそうなぐらい痛んだのは。目から海水が流れ出たのは。

――認めたくない。認めてはいけない。



――だって。



「王族に生まれたくなど無かった」

高齢の人間らしい嗄れた声。

「君と老いていきたかったよ」



いつまでも老いることのない人魚は、その日、背中越しの最愛と最期の逢瀬を果たした。




――だって、別れがこんなにも悲しくなるのだから。
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