破 恋
野上◾◾
会社に入り席に着くと
外線が入る
電話にでると···相手は····
「西原の母です。」
と、名乗り
昨日、西原が病院に入院したと言った
前回のか?と思い訊ねると
母親は、
西原が手首を切り
救急車で搬送されたと
言った。
俺は、動揺を隠し
病院名を訊き
命に別状がないかも確認した。
昨夜は危ないと言われて
いたらしいが····
とにかく、専務に報告して
西原の病院に行く。
西原···もう少し配慮していなければ
いけなかった·····
病室をきいていたので
駆け上がる。
« トントン »
扉をノックして中にはいる。
ベッドの上に眠る西原を一瞥して
回りを見回すと
年配の女性がいた
西原の母親だろう。
その横に桜田がいて
青い顔をしている。
一先ず、桜田は置いといて
母親に挨拶をする。
母親は、俺が西原の上司になると
わかり頭を下げた。
「少し宜しいですか?」
と、言って母親と外に出て
話をする。
まだ動揺が治まっていなくて
しどろもどろの中で
母親は説明をした。
容態は、峠は越したが
かなり傷が深くて
縫合も大変だったと言った。
そうなった経緯を訊ねると
泣きながら、買いつまんで話をした。
そんな方法しか···なかったのか?
お前は、それで泉さんを
忘れられるのか·····
ばかだ····お前は····西原····
話が終わる時に母親が
「意識のないのに·····
涙を流すんです。
どれだけ、私はあの子を傷つけたの
でしょうか······」
と、言った。
俺は、母親と病室に戻り
桜田に向かい
「桜田、帰れ。
それから、会社には出社するな。
自宅待機だ。
追って連絡をする。
良いな。」
と、言うと
涙を流しながら首をふる桜田に
俺は庇護の気持ちなど
持ちあわせていない
「上司命令だ。
お前は、西原の家族でも
ましてや彼女でもない。
西原の病室からでろ。
西原の病室は面会謝絶にする。
許可なく入れない。
わかったなら帰れ。」
と、言っても動かない桜田を
俺は無理やり立たせると
西原の母親が
「止めて下さい。乱暴しないで下さい。
杏ちゃんは妊娠しているのです。」
と、桜田の腕を持つ俺の手を押さえて
言うから。
俺は、はっと思いながら
「妊娠?こいつがですか?
随分とタイミングの良い妊娠だな、
桜田。」
と、言うと桜田はうつむいた。
「あなたも、どうして自分の息子を
信じてあげなかったのですか?
西原もだけど、泉も
本当に苦しんでいた。
真実に目を向けてください。
また、伺います。」
と、言って桜田を連れ出し
「いいか、今日は
自分の部屋からでるな。
良いな。」
と、言ってエレベーターで
下に降りタクシーに乗せた。
それから病院に戻り
西原の担当の先生か
病棟の師長さんと話がしたいと
お願いした。
師長さんが直ぐに対応してくれて
西原の部屋を面会謝絶にして
ほしいと伝えた。
西原の母親と会社が許可した
人物しか入れないように
お願いした。
西原には悪いが
西原の親戚関係も省く
会社関係は、
「専務と俺、安藤と泉のみ」
泉が、いま出張中だったので
代わりに安藤がくるかもと
思ったからだが···
勝手な事をして良かったのか
まあ、専務に報告するしかない。
母親にも名前のリストを渡し
「この人達以外は病室に入れないで
ください。
西原は、長期出張とします。」
と、伝えて再度病室をでる。
母親は、先程の俺からの言葉が
あるからか、少しぼぉーっとしていた。
俺は社に戻り
全てを専務に報告をした。
「流暢だ。ありがとう。
桜田の事は、人事から連絡させる。
面会謝絶の件も申し分ない。
明日辞令がでるから
今日は、何食わぬ顔をして
仕事をしてくれ。」
と、言われた。
辞令?と思いながら
営業部へと降りていく。