破 恋

小さくて、儚いお母さんの背中に
「お母さん、下まで一緒に。」
と、伝えると頷いてくれた。

何も会話をすることなく
エレベーターで下に降りる。

出口に向かいながら
お母さんは、
「私は、息子のいったい
何をみていたのでしょうか?

男の人より、女の人が弱く
例え自分の息子であろうと
女の人を傷つけることは
あってはいけないと·····

ただ、ただ、それだけでした。

その事が、どんなにあの子を傷つけ
追い込んでいるのかも
わからずに
桜田さんの赤ちゃんの話も信じ
孫ができる、それだけしかなく
彼女の嘘も
千里の絶望も
気づかず····母親として
人に教える立場の人間としても
失格です。

まだ見ぬ貴方の事も傷つけて
しまいました。

本当にごめんなさい。

謝罪をしても許される事ではない事は
わかっておりますが
今の私には謝る事しかできません。」
と、涙を流しながら語るお母さんの
背中を擦りながら
外のベンチに腰かける
「ご自分を責められるのは
やめましょう。
お母さんも被害者です。

お母さんの優しさに漬け込む
やり方は非道だと思っています。
私も振り回されて
泣いて過ごす毎日を送っていました。

もちろん千里も同じです。

お母さんが桜田さんを可愛がって
いるのに、私がしゃしゃりでても
と思ったり·····
泣いても苦しくても
それでも千里ときちんと別れる
事ができませんでした。

ですが、千里の記憶が戻りましたら
その時は、きちんと二人で
話し合いますね。
別々の道を歩く事になるかも
しれません。
ですが、私は逃げずに
きちんと話し合いたいと思っています。」
と、言うと
「貴方のような方だから
息子が選んだのだ···と
息子の人を見る目を称賛しています。

泉さん、息子を宜しくお願い致します。」
と、言うとお母さんは、
タクシーに乗り帰って行った。

私は、タクシーが見えなくなるまで
見送り千里の病室に戻る
« コンコン »と、中に入ると
千里が不安な顔をして
手を出すから
その手を取り
「ただいま。」
と、言うと千里は頷く。

「お母さん、帰ったよ。
千里を息子を宜しくお願い致します。
と、言ってね。」
と、言うと千里は、
私の顔をじっとみていた。

するとみかが
「千里、莉子だけじゃなくて
早く私の事も思い出しなさいよ。」
と、言うと
専務は苦笑いをするし
千里は頭をかいていた。

私は、あっと言って
病室の隅にあるキャリーバッグを
開けて莉子と専務
そして千里へのお土産を渡す。

みかは、すごく喜んでくれた。
千里は、お土産を見ていたから
「私ね、上海に行っていたの
日本語の講師として。」
と、言うと
「上海?」
「そう、すごく良い所だったよ。
支社の方々も優しくて
凄く勉強になったの。」
「支社からも泉さんへの
労いと称賛の声が凄くてな。」
と、専務に言われて
嬉しかった。

専務とみかは、
その後、少しだけいて帰って行った。

専務から
「明日まで休むように」
と、言われた。
「ありがとうございます。」
と、頭を下げて
みかには
「連絡するね」
と、伝えた、それだけて
みかには解ると思っていたから。
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