破 恋
記憶の無い千里と過ごすのは
大変だったが
少しずつ千里の世界を話していく。
退院してからは
千里のマンションに
千里と戻り
暮らしている。
千里は、後10日会社を休む
いつまでも、ダラダラでなく
区切りをつけて
との、専務の言葉だ。
記憶の有無に関わらずに
その後は仕事に復帰をする。
一からになるかも
知れないが、致し方ない。
莉子は、朝食を作り
千里と食べ
仕事に行き
夕方帰宅して
夕飯を食べる。
莉子がいない間、千里は
読書をしたり
散歩をしたり
高校や大学に行ってみたりして
過ごしていた。
その後、寝るまで
千里のアルバムをみたり
莉子の知っている限りを話して
聞かせる。
休みの日は、
二人の思い出の場所に行ったり、
お母さんの家や
お父さんのお墓にも行く。
千里は、じっと
何かを考えたり
見つめたりしている。
その間は、莉子は黙って
そばにいた。
手首の傷は、包帯も外れ
今はバンドをはめているが
いずれは、時計で隠れるかな
と、思っている。
私は、千里のベッドの下に
布団を引き、そばにいる。
もう、何もないと思うが
後悔だけはしたくない
あの時····、この時·····とか。
千里は、一緒に寝ようと言ったが
それは、きっぱり断ると
千里は苦笑いをしていた。
そんな生活を一週間
過ごしてみて
千里は、思い出すと言うか
覚えていったと言う方が
当たっているように思える。
それを千里は
苦しいとか、辛いとか
思っているのでは
ないかと思うが
千里は
「そんなことはない。」
と、言う。
お母さんの事も思い出していないが
お母さんと呼び
そして、みか(安藤さん)や専務の事も
そう呼ぶが
思い出したわけではなかった。
私の事は、解るのに
不思議だったが······
千里と話して
心療内科にも受診をしてみた
だが、千里は記憶と現在が
同化してしまい
治療は困難と言われた。
専務と約束通り
10日過ぎには
千里は会社に復帰し
営業に戻った。
苦労する事もあったが
千里は、その方面では
長けていたみたいで
直ぐに力を発揮していった。
【診療については空想です。
申し訳ありません。】