破 恋
目が覚めた時
ここが····どこで
自分が···誰で·····
俺を···千里?と呼ぶ····この人達が
誰なのか····解らなかった。
頭の中が·····真っ白で
手首に微かな痛みが
目を向けると包帯が····
腫れ物にふれるような
年配の女性
ギャーギャー騒いでる若い女性
先生の質問で
自分の記憶がないことがわかった。
その上、どうやら自分は
手首を切り自殺をはかったらしい。
それがなぜなのか
解ったのは、俺が勤める会社の
専務と言う人と所属部の野上さんと
言う方が来たときだ。
俺は、巻き込まれたのか
母親だと言う、この人にも責められて
泉さんと名前を言われた時
胸が締め付けられた。
それが何を意味するのか
今の俺にはわからなかった。
日に日に体は元気になるが
頭の中は、真っ白なままだ。
一人になりたかったが
病院側も俺を警戒している。
母親だと言う人にも
帰るように言った。
自分の生活に戻るように
会話をするわけでもなく
そばにいるこの人にも
いささか辟易していたのだ。
あのギャー、ギャー騒ぐ人も
日を開けずにやってきた。
賑やかな人だ。
手首の傷も抜糸が終わった。
かなり深く切っていたらしいが
傷口は小さかった。
医学の素晴らしさを痛感する。
入院生活もどのくらい過ぎたかと
思う頃に
一人の女性が病室に入ってきた
彼女と目が合い
離せずにいた。
彼女の顔は、段々と破顔していき
涙が溢れだす
その女性に
「せんり」と呼ばれた時
なぜか彼女だけが
クリアになる。
俺は、とにかく彼女に触れたくて
たまらずに彼女に向けて
手を伸ばす···俺の瞳から
涙が流れ出す
彼女は、近づいてきて
俺の手を取った。
俺はその手を引き彼女を抱き締めた。
あ~、りこ。
俺が彼女を抱き締めている間に
専務と母親が説明をしていた。
りこは、俺の手首を見て
また、涙を流す
俺を一人にしたことで
自分を責めていた
莉子が口にだしていないのに
なぜ、わかったのかは
疑問だが、彼女にそれは違うと伝えた。
俺は、片時も彼女を離すことを拒む
自分自身にびっくりしていた。
専務と莉子の言葉で
母親は、帰宅することになった。
莉子は、そんな母親を見送ると言い
ドアから出て行こうとする
俺が、帰って来ないのではと
不安になっていると
莉子は、戻ってくるよ
と言ってくれた。
本の少しの間だが
俺には長く感じた。
莉子が戻ると
莉子の手を取り
離さなかった。
賑やかな女性から
冷やかしみたいに言われたが
構わない。
それからは、莉子が朝から
面会時間終了までいてくれた。
俺達は、何を話すわけでもなく
俺が莉子に触れ
莉子は、俺の好きなように
させてくれていた。
俺の退院が決まり
俺達は、俺のマンションだと
言う部屋に戻った。
莉子も一緒に居てくれた。
専務から10日間休んで
記憶が戻っても戻らなくても
10日を過ぎたら営業に復帰することを
言われていた。
記憶が戻る事はなく
心療内科にも行ってみたが
ダメだった。
莉子も色々な事をしてくれた
だが、記憶ではなく
新な情報として
俺の頭の中には入って行った。
莉子の事も覚えているのは
莉子本人だけで
莉子との付き合った内容は
まったく覚えていない。
仕事に復帰したが
昔の話をされたり
あ~だった
こ~だったと
言われるのは、苦しかった。
考えれば、考えるほど
頭の中は、真っ白になり
俺はこのままでは
ダメだと思い専務に相談した。
専務や社長の計らいで
マレーシアに転勤となる。
莉子と離れるのは
痛く苦しいが
莉子をいつまでも縛りつける事に
罪悪感しかなく
莉子を解放しないといけないと
思った。
莉子には、本当に
迷惑をかけた事を詫びて
莉子の幸せを願う事を
心に誓った。